2013 Fiscal Year Annual Research Report
マラリア原虫で検出されたサリチル酸が誘導する新規シグナル経路の探索
Project/Area Number |
13J00474
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
松原 立真 筑波大学, 大学院生命環境科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | マラリア原虫 / サリチル酸 / プロスタグランジンE_2 / 脳マラリア / 植物ホルモン / 細胞内共生 |
Research Abstract |
これまで我々は、原虫類が産生する植物ホルモンの新規同定を行ってきた。その結果、マラリア原虫ではサリチル酸が高濃度に蓄積しており、近縁の原虫類に見られない独自のホルモンであることが判明した。サリチル酸生合成酵素群はin silicoで検出されず、その合成系が既知の経路と大きく異なることが示唆された。そこで機能解析にあたり、熱帯熱マラリア原虫Plasmodium falciparumに細菌由来のサリチル酸分解酵素遺伝子を導入した。得られた変異株は内生サリチル酸量が半分以下に低下し、サリチル酸欠乏原虫の作出に成功した。この変異原虫は野生株と比較して増殖速度などに大きな差は認められなかった。また、培地中にサリチル酸を添加する実験においても、サリチル酸は原虫増殖に影響を与えず、サリチル酸が原虫の基本的な生存以外の機能を持っていることが示唆された。そこで、マラリア原虫が産生することが知られている炎症物質Prostaglandin E_2 (PGE_2)を定量したところ、産生量が有意に減少していた。このことからサリチル酸がPGE_2合成系に関与し、宿主免疫系を改変している可能性が示された。 この可能性を検証するため、ネズミマラリア原虫P. bergheiを用い、同様に欠乏原虫を作出した。欠乏原虫の表現型はin vitro培養系の結果と大きく異なり、感染試験におけるマウス致死活性が有意に上昇していた。脳組織検査、色素漏出試験の結果、脳マラリアの重症度が有意に亢進していることが確認された。PGE_2は炎症性サイトカインを介した脳マラリア発症への関与が知られている。以上から、サリチル酸はPGE_2を介し、宿主免疫を改変する機能を持ち、マラリアの重症度決定に関与している可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、サリチル酸欠乏原虫の動物感染モデル確立、基本的な臨床症状の観察を目標として研究を行った。結果としてこれらは順調に達成され、サリチル酸欠乏が病態形成に及ぼす影響が明らかになった。以上から、本研究は概ね順調に推移していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、原虫のサリチル酸が病態形成に及ぼす影響について明らかになった。脳マラリアの病態形成においては、炎症性サイトカインが中心的機能を担うことが知られている。また、プロスタグランジンE_2は炎症性サイトカインの上昇を抑制し、脳マラリアの発症を抑えることも報告されている。今後は、これらサイトカインの網羅的な検出を通じ、脳マラリア発症に関与する因子の同定を予定している。
|
Research Products
(4 results)