2014 Fiscal Year Annual Research Report
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13J00696
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大川 領 京都大学, 数理解析研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 壁越え公式 / 連接層のモジュライ空間 |
Outline of Annual Research Achievements |
次数2のヒルツェブルフ曲面のルートスタック上の枠付き捻じれなし連接層のモジュライ空間について考察した。ここで枠付き連接層とは連接層とその無限遠直線への制限から自明束への同型写像との対のことである。このような対のモジュライ空間は中島啓氏により構成された箙多様体の一種であり、ADHMデータと呼ばれる行列の組を用いて記述される。 ADHMデータに対して複数の安定性条件が存在し、安定性条件を決めるごとに安定なADHMデータのモジュライ空間が得られ、ある安定性条件に対しては上記の枠付き連接層のモジュライ空間と一致する。ADHMデータのモジュライ空間上に存在する自然なベクトル束のオイラー数を係数とする母関数は安定性条件の変化に応じて変換する。このような現象を壁越え現象、母関数の変換の法則を与える公式を壁越え公式と呼ぶ。壁越え公式については中島啓-吉岡康太著“Perverse coherent sheaves on blow-up III”において望月拓郎氏の理論を彼らの状況に修正することにより調べられている。この先行結果を参考に研究を進め、まず先行結果の状況よりも複雑なモジュライ空間の障害理論について調べた。結果として彼らの手法と同様に本研究で扱う状況にも望月拓郎氏の理論を適用できることがわかった。これにより物理学者によって提案された母関数の満たすべき関数等式についての予想の解決を試みた。 類似の予想は射影平面上の枠付き連接層のモジュライ空間についても考えることができる。この場合にも望月拓郎氏の理論を用いて壁越え公式を考察した。結果として関数等式についての予想を導出できそうな正しいと思われる変換公式の候補を見つけた。現在のところ完全に証明することはできていないが、この変換公式自体の正しさや予想の導出について幾つかの場合に計算機により確かめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目標は壁越え現象をより深く理解することであった。平成26年度は次数2のHirzebruch曲面のルートスタック上の枠付き連接層のモジュライ空間を調べた。このモジュライ空間は中島啓氏により構成された箙多様体の一種であり、箙表現のモジュライ空間としても理解することができる。壁越え現象の理解を深めるための第一歩として箙表現のモジュライ空間を調べることは本研究の計画の一つであった。これらのモジュライ空間から定まる母関数は本研究のテーマと関連深く今後の手がかりになると期待される。本年度は望月拓郎氏が開発した技術を先行結果を参考にしつつ具体的な問題に適用し解決の道筋をつけながら身に付けることができた。この経験はこれからの研究へと大いに役立てることができると思われる。 さらに本研究は数理物理学をはじめとする数学の諸分野との関連に動機を持っていた。枠付き連接層のモジュライ空間から定まる母関数はNekrasov分配関数と呼ばれ物理学においても大きな興味を持たれ活発に研究されている対象である。本研究は先行研究では扱われていない物質場をもつ理論における分配関数を扱った。物理学的な背景の理解はまだ不十分であるが数学的な定式化や具体的な計算の経験を造詣の深い中島啓氏の下で積めた事は大きい。本研究を始めるきっかけとなった中島啓-吉岡康太による先行結果についてもより深い理解を得ることができた。 年度の後半は射影平面上の枠付き連接層のモジュライ空間から定まるNekrasov分配関数についても調べた。これによりヤング図形の知識、また計算機による計算方法を身につけることができた。これらの技術は元々考察の対象としていた射影平面上の枠付きではない連接層のモジュライ空間の研究の際も参考になると思う。
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Strategy for Future Research Activity |
壁越え公式の計算を詰めて候補となる変換公式が実際に成り立つこと、またこの変換公式から母関数の関数等式が導出されることを厳密に証明することが課題である。そして射影平面上で確かめたことを参考にして次数2のHirzebruch曲面のルートスタック上の枠付き連接層のモジュライ空間から定まるNekrasov分配関数についての物理学者による予想を確かめたい。 さらに考察の対象を当初の計画で考えていた射影平面上の連接層のモジュライ空間からALE空間上の枠付き連接層のモジュライ空間へと変更する。ALE空間は2次元特殊線形群の有限部分群によるアフィン平面の商特異点を極小解消することにより得られる。例外集合を除いた部分を用いて射影平面の商スタックと張り合わせる事によりそのコンパクト化が構成される。このコンパクト化上の枠付きモジュライ空間により定まるNekrasov分配関数を研究対象とする。2年目に学んだ技術を適用し壁越え現象についてのより体系的な理解を得たい。またALE空間は数理物理学や中島啓氏の表現論やゲージ理論の仕事とも関連が深い。これらの背景についても理解を進めてモジュライ空間から定まる母関数の保型性についての研究に役立てたい。 当初の計画で調べる予定であったトーリックスタックの導来圏については重み付き射影直線の導来圏へと変更する。これにより1年目に行った重み付き射影直線のFrobenius押し出しの計算を生かし、さらに代数曲面の特異点との関連についても調べたい。
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Research Products
(3 results)