Research Abstract |
本研究では, 無視, 仲間外れ, 陰口などの関係性攻撃に対する認識と, 実際の攻撃行動の生起過程との関連について検討した。具体的には, 加害者の意図が曖昧な関係性攻撃被害を経験するという架空のエピソードを提示し, 各場面について, 加害者の意図判断などの社会的情報処理, 加害者に対する応答的行動が質問紙調査によって測定された。なお, 関係性攻撃への認識を測定する関係性攻撃観尺度(28項目)は, 「否定的認識」, 「身近さ」, 「正当化」, 「利便性」の4下位尺度から構成された(α=. 68~. 80)。 まず, 小学生200名程度を対象に関係性攻撃観と加害者の意図を敵意的に捉える傾向である敵意帰属バイアスの関連が検討された。その結果, 関係性攻撃観尺度の4下位尺度得点のいずれとも敵意帰属バイアスの関連はみられなかった。 次に, 小学生200名程度を対象に関係性攻撃観と, 関係性攻撃被害を受けてからの目標の明確化の情報処理過程, 応答的行動の関連を共分散構造分析によって検討した。目標の明確化では, 自分の不快感を率直に伝えることや加害者の行動についての説明を求めることを重視する「主張的目標」と, 加害者との関係を継続することを重視する「関係維持目標」が測定された。その結果, 関係性攻撃観の「正当化」が, 「関係維持目標」との負の関連を介し, 「関係性攻撃」と正の関連を示すことが明らかになった。さらに, 「正当化」と「関係維持目標」の負の関連を介し, 「主張的行動」と負の関連を示すことも明らかになった。つまり, 関係性攻撃について報復を許容する認識を持っていることが, 実際の攻撃行動の生起に至るプロセスには, 相手との関係の継続を重視する傾向の低さが関わっている可能性が示唆された。 本研究の実施によって, 小学生が関係性攻撃について元々抱いていた認識が, 実際の社会的相互作用場面での認知処理過程を歪め, 攻撃行動や社会的に有能でない行動を表出させる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の当初の目標では, 関係性攻撃の形成要因として, 両親の関係性攻撃に対する認識を検討する予定であった。しかし, 両親を対象に含めた質問紙調査の実施を, 小学校を通して依頼することが, 非常に困難であった。そのため, 研究計画はやや遅れていると評価される。
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Strategy for Future Research Activity |
やや遅れている両親を対象にした研究の実施については, 小学生からみた両親の行動という観点から捉えることに変更する。実際の両親を対象にする訳ではなく, 小学生の認知した両親の行動という限定はつくが, これによって, 小学校への調査依頼が実現可能な研究計画になると期待できる。 また, 社会的情報処理モデルに則った本年度の研究成果を整理し, 関係性攻撃の低減に寄与できる知見についての提言を行う。
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