2013 Fiscal Year Annual Research Report
ベトナム阮朝社会経済史の研究-貨幣・穀物流通を中心に-
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13J01015
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
多賀 良寛 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 19世紀 / 阮朝 / 貨幣 / 穀物 / 漕運 / 阮朝殊本 |
Research Abstract |
本年度は、19世紀ベトナムにおける貨幣流通および穀物流通のあり方について、『大南寔録』および『大南会典事例』などの基礎資料をもとに分析した。貨幣流通ついては、当時の貨幣流通が持っていた多様性の具体像とその意味を、銀と銭貨という2種類の貨幣に着目して論じた。このうち銀の流通については雑誌論文のかたちで研究成果を公表することができた。また、貨幣流通を起点にして、税制や鉱山開発の問題についても検討を行い、国内の学会においてその成果を発表した。 本年度の後半期には、19世紀ベトナムにおける穀物流通の検討に本格的に着手した。具体的には、国家が組織する穀物輸送制度=漕運制度に着目し、従来の研究では看過されてきた財政的物流の重要性を明らかにした。漕運の分析にあたっては、まず穀物需給の前提条件をなす各地域の要素賦存状況を検討し、人口や耕地といった生産要素が南北のデルタ地帯に偏在していたことを明らかにした。続いて、漕運組織、漕運によって輸送される漕糧の規模、漕糧の備蓄機関と再分配機構などの問題について考察を加え、漕運による穀物の流通過程を分析した。以上の内容をまとめ、11月に開催された史学会で研究成果を発表した。ベトナムの漕運に関する研究はこれまで皆無といっていい状況であったため、口頭発表ではあるが研究成果を公表できた意義は大きい。 なお年末年始にかけて、科研プロジェクトに随行してベトナム北部山地-雲南の交通ルートの調査を行った。調査ではフィールドワークを行うとともに、ハノイで国立第一公文書館を訪れ、阮朝殊本に関する調査を行った。秣本の現物は閲覧することができなかったが、公刊されていない目録類の閲覧は許可され、編纂史料にはない多数の関連記事を確認することができた。次年度に予定されているベトナムでの在外研究に向けて、大きな弾みをつけることができたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初予定した基本史料による貨幣流通・穀物流通の分析については、順調に調査が進展し、学会発表や雑誌論文のかたちで成果を公表することが出来た。また上記のテーマに付随して、税制や鉱山開発、人口問題についても、多くの史料を収集して研究の見通しを立てることができた。現地調査についても、フィールドワーク・文書館調査の両面で大きな成果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は日本における基本文献の調査成果を踏まえつつ、現地史料を駆使して研究を進めていく。当初の研究計画どおり、平成26年度はベトナム・ハノイのベトナム学開発科学院にて在外研究を行う。現地では語学研修を受けつつ、ハンノム研究院や国立第一公文書館で史料調査を行う予定である。現地の文書館に保蔵されている史料を用い、初年度に基礎を据えた諸テーマについて、さらに具体的な情報を収集していく。またテーマも貨幣・穀物流通からさらに発展させ、税制や財政の問題、国家による人口・土地センサスの作成、穀物流通における商人層の動向などについても史料を収集していく。ベトナムから帰国した後は、現地で収集した史料や文献を最大限活用し、博士論文の執筆に取り組む。またその過程で蓄積された研究を、日本語だけでなく英語のジャーナルにも投稿し、広く世界に向けて研究を発表していく。
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Research Products
(5 results)