2013 Fiscal Year Annual Research Report
位置変化・状態変化表現における語彙的意味と談話の役割に関する研究
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13J01094
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
並木 翔太郎 筑波大学, 大学院人文社会科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 様態・結果の相補性仮説 / 日本語の移動様態動詞 / 全知の語り手の視点 / 英語の殺害様態動詞 / 動詞枠付・衛星枠付言語 / 介在使役構文 / 意味役割「経験者 |
Research Abstract |
本年度は、日英語で観察される位置変化・状態変化表現における語彙的意味と談話の役割について、研究計画に従い、次の4点を中心に研究を行った。(1)日本語の移動様態動詞と二格名詞句の着点解釈(例 : 交番を出た二人は、無言のまま駅に歩いた。vs. 太郎ならさっき駅に{*歩いたよ/歩いて行ったよ}。)の記述的研究の総括、(2)英語の「殺害様態動詞(例 : guillotine, drown)」が語彙的に表す意味と語用論的推論により得られる意味との峻別、(3)(1)と(2)に基づいた、動詞の語彙化に関する制約(「様態と結果の相補性(Manner/Result Complementarity ; Levin and Rappaport Hovav 2010)」仮説)の日英語間における差異に関する研究、(4)日中英語における「介在使役構文(例 : 太郎は髪を切った。(=「髪を切ってもらった」の意で解釈することが可能)vs. ??Taro cut his hair. (≠Taro had his hair cut.))」等の言語比較による、経験者としての意味役割付与の研究。(1)(2)は計画目標[A]「語彙意味と談話の対応関係を示す表現の検証」、(3)は[B]「一般的妥当性の検証・共通・相違点の考察」に対する成果となる。(1)~(3)により、英語は「様態」の意味と「結果」の意味を単一の動詞で同時に表すことのできない、例外が認められない言語であるのに対し、日本語は物語文での「全知の語り手の視点」を用いることで例外的に様態・結果の相補性を保留にできる言語であることが判明した。この違いは、Talmy (2000)が提案する動詞枠付言語(日本語など)と衛星枠付言語(英語など)という言語類型論に基づくことで予測される結果であると同時に、この言語類型論のさらなる理論的発展を示唆するものであると考えられる。また、(4)の研究を通して、(1)~(3)での日英語の相違点を、独立した言語現象でも同様の説明な可能であることを示し、本研究の妥当性を示すことが可能になった。この理論的発展については、4つの現象を包括的に捉えるための理論的基盤を構築する作業を行っている。これにより、[A][B]よりもより上位の目標である[C]「抽出された一般化に対する原理立てられた説明」に関しても成果が期待できる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画で分析の対象とした事例だけでなく、研究計画を立てた時点では対象にしていなかった事例についても、詳細な記述研究を進めることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、日英語における包括的な意味での"経路概念"の強制(coerce)の方略に対する原理的な説明を行う。具体的には、これまでの個別事象に対する記述的研究の成果から、日本語と英語では"経路概念"の強制方法が異なることが明らかにし、この言語間における違いがTalmy(2000)における言語類型論の修正・拡大により捉えられることを示す。また、当該理論の妥当性をより十分に示すために、①日本語における二重目的語表現(例 : 太郎は花子に{手紙/^*論文}を書いた。)の認可条件、②英語の不変化詞inの着点解釈のメカニズムの二点を解明する必要があると考えられる。
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