2013 Fiscal Year Annual Research Report
ナチス期ドイツにおける「語り」の研究 : ナチ党古参党員の自伝的手記の検討から
Project/Area Number |
13J01344
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大曽根 悠 筑波大学, 大学院人文社会科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ナチ党 / 古参党員 / 自伝(的手記) / 語り / ナチス期ドイツ |
Research Abstract |
本研究はナチ党古参党員の主に第二次大戦前ドイツ下での心性を把握することを目的とする。ナチ党の権力獲得後、古参党員は重用されたが無批判な優遇にも慎重さが要されたいわばアンビバレントな存在であった。本研究は、自伝的手記を素材として用い、過去を想起する仕方を足がかりとしてその心性に迫り、古参党員のありようを考察するための一寄与とするものである。 本年度4月~2月にかけ、研究指導委託制度に基づきベルリン自由大学にて研究滞在をした。この間、本研究で核となる史料"Abel文書"の読込みを進めた。これは、ナチ党加入の経緯や動機、その後の活動の経験を中心とし、家族・教育状況、大戦の経験、戦後の事件や思想に対する見解等記述することが求められた懸賞企画により、1934年アメリカの社会学者Abelによって収集された古参党員の自伝的な手記である。この史料群を過去の事件や見解が単純に反映されたものと捉えず、手記を書く現在における、書くという行為、手記の行論それ自体や、自己及びナチ党の歴史に対する意味付与、回顧された要素を纏め上げ、構成される仕方等に留意した。その結果、古参党員の自己顕示的・弁明的な態度や、党及び体制の"正しい"方向性に改めて支持を表明する姿勢、あるいはヒトラーや体制下ドイツに対する確信を新たにし、また、書くことによってその思考を整理する姿が浮かび上がった。 さらにアメリカはフーバー研究所でAbelの日記等の史料調査、及び手記執筆者の個人関係史料を得るため連邦文書館で史料収集を行った。本研究は当該期のナチ党を捉える論点を提示し、ひいては広い意味での当時の歴史認識の一端を浮き彫りにする意義を有するが、本年度の研究により、テクストのみに終始しない多面的な考察を見据えた準備が進められた。 なお本年度、論文一本の翻訳者として携わった書籍が刊行された。現代ドイツと日本の状況に関する問題意識を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初より本年度は、核となる史料の読解とその他資料の収集に充てられるとしていたものの、予定以上に(特に手書きの)自伝的手記の読解に時間を要し、その他に収集した資料の読み込みがやや遅れた。ただ、次年度に深めていく論点は、自伝的手記から概ね抽出されたと捉えられるので、区分としては②にやや近い③とできる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の課題としては本年度得られた研究成果をより洗練させ、論文として、あるいは研究会や学会等の場で形にしていくことである。併せて、もう一つの核となる史料群(個人の"闘争史"としての手記)の考察を進める。そこで明らかとなると想定される史料の必要を補うため、夏期中に、ドイツ連邦文書館をはじめとして史料調査を行う。さらに、第二次大戦前、あるいは20世紀前半のドイツにおいて自伝(的な手記)を書くことの意味や実情といった論点をはじめとした知見を得て、本研究を多面的に豊かにするために研究文献を読み込む。
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