2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13J01346
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
寺尾 恵仁 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | まちと演劇 / 都市空間の演劇表現 / 連続性の中断 / 決定不可能性 / 制度化 / 公共圏と親密圏 / 政治性 / 演劇現象学 |
Research Abstract |
本研究は、現代演劇における俳優のあり方を捉え直し、演劇の新しい可能性を理論と実践の双方の側面から探求する事を目的として、3年連続のシンポジウムを企画した。1年目となる2013年度は、「まちと演劇」と題し、文化政策研究者伊藤裕夫氏、演劇批評家鴻英良氏、劇作家岸井大輔氏という、それぞれの分野で都市と演劇との関係を考察し続けている論客を招聘し、パネルディスカッションを行い、その内容を小冊子にまとめた。 シンポジウムでは、まず研究代表者による「不可能性の瞬間―都市空間の演劇表現におけるズレと逸脱」と題した基調講演を行った。都市空間における演劇表現は、政治的・意味的な諸連続性を中断し、現代社会と人間表現のあり方を批判的に捉え直す機能を持つ。演劇・美術・パフォーマンス・政治活動等領域横断的な特徴を持つ都市空間での演劇表現を分析するためには、古典的な記号学的演劇解釈だけでは困難であるため、フッサール、メルロ=ポンティの理論を演劇上演に応用させたイェンス・ローゼルトの演劇現象学を参考に、中断を伴う「決定不可能性」の意義について考察した。 パネルディスカッションでは、前半部で「制度化」「公共圏と親密圏」「政治性」の三つのテーマを設定し、議論を行った。「制度化」では演劇およびアートプロジェクトの発展と現状について、「公共圏と親密圏」では公共芸術としての演劇の可能性と問題について、「政治性」では古代アテネ以来の演劇と政治の関係性について、それぞれ登壇者の問題提起をもとに議論を行った。後半部では観客から寄せられた質問をもとに、寺山修司の市街劇、ハンブルクでの歴史展覧会、悲劇と喜劇の差異などについて議論を行った。 今回のシンポジウムは、分野の異なる論客同士によって幅広く歴史・政治・哲学も視野に入れた議論が行われ、社会における演劇の機能と意義について考察を深めるための重要な機会となったと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の出発点となる「エキスパートシアター」概念は、演劇表現における素人の存在を通して演技について問い直すためのものである。今回のシンポジウムと基調講演では、同概念を前提とした上で、さらに多様な観点から演劇、特に演技表現について考察する機会となった。
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Strategy for Future Research Activity |
舞台上の素人という存在は、演劇上演における政治性を分析するための重要な題材である。何故なら演劇表現における俳優の代理/表象の構造は、民主制におけるそれと共通するからであり、通常の俳優とは異なる素人の表現は演劇のみならず社会制度における代理/表象構造を問い直す存在だと考えられる。故に次年度では演劇表現の政治性にテーマを絞ってシンポジウムを実施し、単なるプロパガンダに留まらない、パラドキシカルな演技概念について考察を深めたい。
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