2014 Fiscal Year Annual Research Report
高電離輝線の精密分光観測による銀河面X線放射の点源成分と拡散成分の定量的分離
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13J01395
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
信川 久実子 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | MeV銀河宇宙線 / 銀河面X線放射 / X線天文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
銀河面上には個々の天体に分解できない空間的に広がったX線放射が存在している (GRXE)。近年その80%が点源に分解され、白色矮星連星系(CV)を主成分とする説が有力である。GRXEは中性と高階電離の鉄輝線を付随する。後者はCVが持つ数千万度の高温プラズマの特徴である。しかし中性鉄輝線の起源は未解明である。我々はすざく衛星で銀河中心の西側(-4°< l <-2°)と東側(2°< l <4°)を観測し、中性と高階電離の鉄輝線の東西の違いを定量的に調べた。 高階電離の鉄輝線の強度分布は東西対称で、星の分布と一致した。中性鉄輝線の西側の分布は星由来で説明できたが、東側の強度は西側に比べて2倍高かった。つまり東側では点源では説明できない真に広がった成分が存在している。この成分は分子雲と相関しており、中性鉄輝線は高エネルギーな粒子 (X線/keV電子/MeV陽子) が分子雲に当たって放射されている。近傍に明るいX線星は無く、X線起原ではない。照射粒子が電子か陽子かは、スペクトルの連続成分と輝線強度の比(等価幅)で区別できる。東側から西側のスペクトルを引き、中性鉄輝線を放射する成分のみを抽出すると、大きな等価幅(1.3 keV)を得た。電子は強い制動放射を放出するため等価幅は0.2-0.4 keV程度である。一方陽子起原の場合は等価幅が1 keV以上になる。したがって広がった成分の起原はMeV宇宙線陽子である。陽子のエネルギー密度は20 eV/ccと求まった。 MeV宇宙線は電離によって星間物質を加熱するため、銀河の化学進化において重要な役割を果たす。しかしMeV帯域の宇宙線は、太陽風の影響によって太陽系内では観測不可能であるため、探査機による太陽系のごく近傍での観測を除くと、全く未知の領域であった。我々は中性鉄輝線というプローブを用いて、初めてMeV銀河宇宙線陽子を測定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
銀河中心の東西をすざく衛星で観測した結果、高階電離鉄輝線の強度分布は東西対称で星の分布と一致することを明らかにした。一方、中性鉄輝線に関しては西側は星由来で説明できるが、東側は星由来に加えて分子雲に由来する真に広がった成分が存在することを突き止めた。つまり、輝線強度の分布によって点源と真に広がった成分の分離に成功した。さらに、分子雲に由来する広がった成分がMeV宇宙線陽子によるものであることを初めて明らかにした。MeV宇宙線陽子は太陽系内で観測できないため、探査機による太陽系のごく近傍の観測しか行われておらず、まったく未解明の成分であった。我々はMeV宇宙線の間接的な観測に初めて成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
銀河面の他の領域で、宇宙線による広がったX線放射を探査する。すざく衛星による先行研究で、銀経 ~ -20°付近で中性鉄輝線が強いことが分かっており、宇宙線起原による拡散成分が存在する可能性が高い。この領域でも、銀河中心の東西領域と同様に、中性鉄輝線と高階電離鉄輝線の強度分布を用いて、点源由来と拡散成分に分離し、等価幅から拡散成分の起原 (X線、宇宙線陽子あるいは電子) を解明する。 我々はこれまで開発を行ってきた次期X線天文衛星ASTRO-Hを2015年度に打ち上げる予定である。ASTRO-Hでは、宇宙線起原の拡散成分の研究をさらに推し進め、MeV宇宙線の銀河面上での分布や密度、加速源を明らかにする。ASTRO-Hに搭載するX線CCDカメラは、すざく衛星の4倍の視野を持っているためにマッピングに適しており、宇宙線起原による拡散成分を系統的に探査できる。中性鉄輝線は、電子起原なら輝線幅は1 eV、陽子起原なら40 eV (1σ) 程度に広がるが、ASTRO-Hに搭載するマイクロカロリメーターはエネルギー分解能が4 eV (FWHM) なので、起原を確実に判定できる。また高エネルギーX線撮像分光器は、すざく衛星では捉えられなかった10 keV以上の連続成分を観測できるので、MeV宇宙線が制動放射で放射するX線のべきを測定でき、それによってMeV宇宙線のべきを決定できる。これらの観測結果と、電波の観測データから得られる星間ガスの密度を用いて、MeV宇宙線のエネルギー総量、密度分布、スペクトルを明らかにする。
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Research Products
(10 results)