Research Abstract |
平成25年度は, 主にヒドリド(ヒドロゲルミレン)タングステン錯体と2電子供与体およびα, β-不飽和ケトンとの反応について研究を行った。 1. 2電子供与体との反応 金属-ゲルマニウム二重結合を持つゲルミレン錯体と過剰量のPMe_3との反応を行うと、タングステン上のヒドリドのゲルマニウム上への転位を伴いボスフィンがタングステンへ配位し, ゲルミル錯体が生成した。一方, より電子供与性の高いN-ヘテロ環式カルベンである1,3,4,5-テトラメチルイミダゾール-2-イリデン(<Me>^IMe)との反応では, 瞬時にカルベンが塩基としてゲルマニウムに配位し, 塩基安定化ゲルミレン錯体が定量的に生成した。さらに, 生成した塩基安定化ゲルミレン錯体は, 小過剰の<Me>^IMe存在下で, 予想外にもHC (SiMe_3)_3の脱離を伴い, W-Ge-w-Ge四員環骨格を有する二核タングステン錯体を高収率で与えた。X線結晶構造解析により, この二核タングステン錯体はそのGe…Ge間距離が一般的なGe-Ge単結合に近い特異な構造を持つことが明らかになった。N上の置換基がメチル基より嵩高いイソプロピル基であるN-ヘテロ環式カルベン(<Me>^I^iPr)と反応させた場合には, HC (SiMe_3)_3の脱離は起こらず, 代わりにカルベンによるプロトン引き抜き反応が起こり, アニオン性ゲルミレン錯体が生成した。この錯体は, アニオン性ゲルミレン錯体の初めての例である。 2. α, β-不飽和ケトンとの反応 ゲルミレン錯体とα, β-不飽和ケトンとの反応を行うと, 基質の炭素-炭素二重結合の選択的水素化が進行し, 飽和ケトンと金属-ゲルマニウム三重結合を持つ錯体(ゲルミリン錯体)が高収率で生成した。このような, ゲルミレン錯体によるα, β-不飽和ケトンの炭素-炭素結合二重の水素化反応は新しいタイプの選択的還元法であり, 触媒反応への応用の観点から注目される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では, 金属-ゲルマニウム多重結合を利用した新しい分子変換反応や触媒反応への応用を目的として, ゲルミレン錯体の有機基質に対する反応性の解明を行った。その結果、ゲルミレン錯体とN-ヘテロ環式カルベンとの反応では二核錯体やアニオン性ゲルミレン錯体といった新規な構造を有する錯体が生成することを見出した。また, α, β-不飽和ケトンとの反応では, ゲルミレン錯体によるα, β-不飽和ケトンの選択的水素化反応を見出す等の成果が得られているので, 研究はおおおね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究において, ゲルミレン錯体によるイソシアナートのC=N二重結合およびα, β-不飽和ケトンのC=C二重結合の化学量論的水素化反応を見出している。今後は, これら反応を触媒反応に展開するため, 上記の水素化反応の際に, 副成するゲルミリン錯体に水素化試薬を反応させ, ゲルミレン錯体を再生させる試みを重点的に行う。 これに加えて, 従来の計画通りに, これまでに得られたゲルミリン錯体とアルコール, アルデヒドおよびα, β-不飽和ケトンとの反応生成物に対してヒドロゲルマン, 酸, 有機基質などを反応させ, 錯体からゲルマニウムフラグメントを脱離させることを検討する。
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