2013 Fiscal Year Annual Research Report
日本語準体句の研究-歴史研究と方言研究からの展開-
Project/Area Number |
13J01573
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
坂井 美日 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 準体句 / 準体助詞 / 歴史研究 / 方言研究 |
Research Abstract |
「準体句」とは、名詞でないもの(動詞や形容詞)が名詞として振舞うものである。そのメカニズムや歴史的変化の解明は日本語研究の大きな課題とされながら、従来それに成功した研究はない。本研究は、歴史研究と方言研究の手法を合わせる取り組みによって、本年度は、準体句の歴史的変化の「プロセス」を明らかにすることに成功した。1. 歴史研究では古典文献調査により、1-a. 統語位置(述語/項)によって変化の過程が異なっていたことを明らかにし、1-b. 述語位置の準体句については、その歴史的変化が、通言語的に希少とされる人魚構文の発達に関与していたことを示した。1-c. そして項位置については、述語位置の変化とは別に近世に起こったことを示し、1-d. 従来混同されて扱われてきた上方方言資料と江戸方言資料を分けたことにより、これら異なる2方言の変化が、同じプロセスを辿っていたことを明らかにした。2. 現代共時態の方言調査では、特に琉球方言研究で大きな成果を得ており、2-a. これまで準体句の変化は古典文献上でしか観察できない過去の現象と考えられていたところ、南琉球宮古の方言において、その変化がまさに現代で起こっているということを発見した。更に2-b. その南琉球宮古の方言に起こっている変化が、先述した上方方言と江戸方言のかつての変化と同じプロセスを辿っていることを明らかにした。3つの方言のプロセスが一致するという発見により、日本語の準体句には、異なる方言を同じ方向に変化させる普遍性の高いシステムが働いていると考えられる段階に至り、変化のプロセスモデルを提案するという大きな成果を出すことができた。その他にも、方言調査では、準体助詞の歴史との関連が深いとされる格助詞について琉球・九州方言を中心に調査を進めており、また方言資料の電子化についても、それを所有する市の教育委員会と会議を重ね、調査を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、歴史研究と方言研究の両立によって研究の展開に成功している。文献調査によって、かつて本土で起こった準体句の歴史的変化のプロセスを明らかにし、方言研究によって、かつて木土で起こった変化と全く同じプロセスで変化している方言の実例を示せた。これらは先行研究が解明できなかった準体句の変化のシステムを明らかにする成果である。ただ計画の一部では、インフォーマントの体調不良で予定ほど調査回数はとれず、また、方言資料の電子化は、それを所有する市の教育委員会と交渉が難航し遅れている部分がある。しかしインフォーマントや地域の意向を尊重し歩調を合わせることは必要である。その遅れは全体に影響しないレベルであり、進展が順調であることには変わらない。
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Strategy for Future Research Activity |
上記11に述べたように、本研究はおおむね順調に進展しているが、計画の一部においては、インフォーマント体調への考慮や、市町村との交渉のため、若干遅れている部分があるため、今後はまず、その遅れている部分を補充する。インフォーマントの体調には引き続き考慮し、協力していただける時に短時間の調査を行なってゆく。また、今は一人の話者に負担がかかっているため、その負担を軽減するためにも新たな協力者を探し、平行して調査できるようにする。方言資料の電子化に関する市町村との交渉は、会議の回数を重ね、意見交換の機会をより多く設けることで解決してゆく。さらに今後は、以上の補充作業に加え、新たな調査も加え研究の展開を試みる。本研究はこれまでに、変化の「過程」を明らかにした。これからは、変化前の中世以前の文献調査を行ない、古典文献の調査結果と、各地方言での変化の様相を考え合わせ変化の「原因」を考察する。
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Research Products
(5 results)