2013 Fiscal Year Annual Research Report
絶滅危惧種シマフクロウ集団の変遷史の解明および保全遺伝学的研究
Project/Area Number |
13J01622
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
表 渓太 北海道大学, 大学院理学院, 特別研究員(DC1)
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Keywords | シマフクロウ / ミトコンドリアDNA / マイクロサテライト / 集団構造 / 遺伝的多様性 |
Research Abstract |
北海道のシマフクロウ集団では遺伝的多様性の低下や地域集団の分化が生じていることが、これまでの研究で示唆されてきた。今年度の研究では、現在の北海道シマフクロウの集団構造形成の歴史的な経緯の解明のために、個体数減少以前の古い剥製サンプルを含めて、マイクロサテライトおよびミトコンドリアDNA配列の分析を行った。サンプルとしては北海道大学に保管されていた培養細胞、環境省の許可を得て標識調査の際に採取された血液、各地の博物館等から提供を受ける羽毛等を用いた。 ミトコンドリアDNAについては全塩基配列の解読が完了し、遺伝子群が重複していること、およびシマフクロウのミトコンドリアゲノム(約21kbp)が脊椎動物で報告されている中で最大級であることが明らかになった。ミトコンドリアDNA配列をもちいた解析によって遺伝的多様性の変化や地域集団間の遺伝子流動の評価を行った結果、個体数が特に減少したとされる1980年代以前には地域間の交流が存在していたが、その後生息地の断片化に伴って地域集団の孤立が生じたことが示された。また、過去30年間の400個体以上を対象にマイクロサテライト解析により地域ごとの遺伝的多様性の変化や近親交配の程度をより詳細に推定した結果、近親交配が特に多い地域や一部の個体の移動が明らかになった。これらの結果は環境省のシマフクロウ保護増殖計画でもペアリングや放鳥のための情報として利用されている。 これらの成果は2013年度日本動物学会および日本鳥学会において発表した。さらに国際英文誌に投稿し現在査読中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初主な目標としていた、北海道のシマフクロウ集団の歴史的変遷の解明について、ある程度達成することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
シマフクロウの配偶システムや分散の様式等の生態的特徴の解明、およびミトコンドリアDNAに大きな反復配列を含む遺伝子群の重複をの分子進化のメカニズムや系統との関係の検証を引き続き行う。 遺伝的多様性が低下したシマフクロウでは病原体への抵抗力の低下が懸念される。そこで当初の計画に加えて、免疫系に関わるMHC遺伝子の多様性や分子進化、寄生虫等についての研究を優先して行う。
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Research Products
(3 results)