2013 Fiscal Year Annual Research Report
ヴィクトリア朝期の小説における反帝国主義の流行とそのプロパガンダ的特長の研究
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13J01716
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
深町 悟 広島大学, 大学院文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ジョージ・チェスニー / ドーキングの戦い / プロパガンダ小説 / 未来戦記 / 架空戦記 / 軍人作家 / 英文学 / フレデリック・ロバーツ |
Research Abstract |
私の平成25年度の年次計画は英国の軍人George Chesney著の小説The Battle of Dorking (1871)によって成立し、主に英国で第一次世界大戦まで流行したInvasion Literatureと呼ばれる小説群について、そのスタイルを研究することであった。英国の本土を侵攻させるこれら小説のプロットは軍事的なシミュレーションを基に成り立っているが、その多くは読者の恐怖心に訴え本土の防衛力強化を目的とするプロパガンダ小説であることから、それらの作品が流行した経緯を当時の政治的背景に求めた。 平成25年度は、①1871年当時の英国でドイツ帝国の台頭から防衛力強化を求める世論が存在感を増していたということを背景に、The Battle of Dorkifigが、なぜ、その世論の中心的存在にまでなることができたかを検証し論文を執筆した。②他の列強との宥和政策を支持する政府とメディアがいかにThe Battle of Dorkingを危険視し、どのようなカウンタープロパガンダをこの小説に対して行ったのかを検証した。また、この研究も論文にまとめたが、平成26年4月現在査読中である。③Invasion Literatureの流行は当時の世相を表しているのだけではなく、その流行を牽引した人物や組織が有ったのではないかと考え、英国で資料調査を行った。当時国民的な人気を誇ったフレデリック・ロバーツ元帥(1832-1914)という人物が、その文学ジャンルの代表的な作家たちに軍事の専門的なアドバイスをしていたこと、また、新聞や雑誌などのメディアに強いパイプがあったことを、彼の手紙などから確認した。しかし、この調査はまだ発表しておらず、今度論文にまとめる予定である。 ①と②に関してはInvasion Literatureの原点となった作品の世論誘導の手法を論じることが、その作品に追従して誕生した作品群をプロパガンダ小説として研究するための基準になると考えられるため意義がある。③については、プロパガンダ小説群の流行の背景を調べることで、それぞれの作品を線で結ぶことができると考えられるため重要であり、今後も継続して調査したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度はInvasion Literatureという小説群のスタイルを研究するとの年度計画を立てたが、調べた作品は限定的であり、全体を論じるにはまだ多くの時間が必要である。その一方で、この小説群の流行にロバーツ元帥との強い関係を発見したことに加え、Invasion Literatureの原点となった作品のプロパガンダ的特長を多角的に検証したことは、次年度からの研究の確かな下地となりえると考えているので、順調に発展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度は英国における近代的戦争小説の登場と発展を、初めての戦場特派員のWilliam Russellが1850年代に書いた戦争記事との比較から研究する、というものだったが、25年度に計画したInvasion Literatureのスタイルの研究はまだ時間が掛かかる。そのような中でRussellの研究に1年間割くことは、課題である1871年以降のInvasion Literatllreから反帝国主義の流行を求めるという研究を予定通りの平成27年度以内に完結させることが難しいと判断した。26年度も25年度の研究を続け、この小説群のスタイルとプロパガンダ的特長を厳密に分析したい。
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Research Products
(1 results)