2014 Fiscal Year Annual Research Report
ヴィクトリア朝期の小説における反帝国主義の流行とそのプロパガンダ的特長の研究
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13J01716
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
深町 悟 広島大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | Invasion Literature / 未来戦記 / プロパガンダ小説 / George Chesney / Channel Tunnel Crisis / 侵攻文学 / 1870年代 / 英文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の研究、George Chesney 著の「ドーキングの戦い」(‘The Battle of Dorking, 1871) 以降1870年代の「侵攻文学」(Invasion LIterature) について軍事プロパガンダの一形態として研究した。1870年代の「侵攻文学」については、「ドーキングの戦い」が広く嘲笑の対象とされたことが一つの理由となり、作品数がとても少ない時代であったことから、研究の対象とはされてこなかった。しかし、1880年代のこの文学ジャンルの研究や、第一次世界大戦までの「侵攻文学」全体を時系列的に論じるのに、この時代の研究は有益であると判断し、研究にあたった。1870年代の「侵攻文学」の研究は他の作品を含め、そのプロパガンダ的特長という観点に限定すれば一応完了したと言える。 この時代の作品は一般的に、当時存在した東方問題に起因するヨーロッパの情勢不安を使って、他国の英国への侵攻に真実味を増すための工夫が見られる。しかし、作品数が5、6タイトルととても少ない中で作者不詳の『海峡トンネル、つまり英国の破滅』(The Channel Tunnel, Or England’s Ruin, 1876)という例外もあり、すでに存在する情勢不安ではなく、国内世論の高まりを新たに作ろうと試みる作品も見られた。また、東方問題を土台にしながらも設定する主な敵国はロシアではなく、わざわざドイツに設定しているなどの理由から、この時代は1880年代とは違い、ドイツを特に仮想敵国としているという特長もある。 毎度の敵国としながら英国に侵攻してくるドイツ人の描写について、1890年代以降の作品に顕著に見られるように読者に憎悪を喚起させる描写はほとんどなく、作者なりの戦闘の予測から、英国の防衛に置ける脆弱性を明らかにしようとする構成となっているということも、その時代の特長と言える。 これらが平成26年度の研究のおおよその成果である
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は「侵攻文学」の内、特にGeorge Chesney著の「ドーキングの戦い」(‘The Battle of Dorking’, 1871)について英国国内世論の分析から、なぜ「ドーキングの戦い」の世論の支持が4ヶ月と短命に終わったかを研究した。また、「侵攻文学」の流行は当時の世相を表しているのだけではなく、その流行を牽引した人物や組織が有ったのではないかと考え、英国で資料調査を行った。 平成26年度は、「侵攻文学」の発展をプロパガンダ的手法という観点から研究するというものであった。この研究について対象とする年代は特に1870年代を中心に行った。この年代を研究する意義は1871年以降の10年間「侵攻文学」が他の時代に比べて圧倒的に不人気であった時代で先行研究が皆無であるということ、この小説群を時系列的に論じるこということである。 この研究を該当年度に行い、有意義な発見があったため2本の論文にまとめた。その発見は「侵攻文学」作品が書かれる背景には英国と他の列強との外交関係などに起因する世論の高まりがあるといわれるが、そのような背景の無い中でも作品が発表されるという現象を確認した。また、1890年代以降の「侵攻文学」のトレンドである英国内に滞在する外国人による内側からの英国の侵攻というプロットが当時すでに用いられていたということが分かったということである。 しかし、上述の成果がありながらも「侵攻文学」における1870年代のトレンドを論じることが26年度の計画であったため、もっと幅広く研究すべきであった。このことから、当初の計画以上に研究が進展しているとは言えない。自己評価として、おおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、これまでの研究と現在までに集めた資料をもとに「侵攻文学」における1870年代の反帝国主義の作品群として検討し、まとめる。しかし、1871年に誕生した「侵攻文学」がヴィクトリア朝期において連続的な反帝国主義の流行がであったということを論証しようとすることを目的とする本研究は、1870年代に限って論じる以上、論拠として弱い。そのため、現在行っている1880年代の「侵攻文学」の研究についても合わせてまとめたい。 1880年代の「侵攻文学」においては二度の流行があった。一度目は英仏海峡を地下トンネルで結ぶ工事の是非について1882年から一年ほど国民的議論を引き起こした「海峡トンネル危機」(The Channel Tunnel Crisis) の時期である。その当時に出版された小説は大英図書館に保管されていたので、研究奨励費を用いて入手した。現在はそれらの資料の研究をしている。この「海峡トンネル危機」に関連する研究は前年度の2月から行っているが6月頃に終わらせる予定である。 また二度目の流行については、フランス海軍の拡大に危機感を覚えはじめた1880年代中頃から1890年代初頭である。それは英国本土をまもる英国海軍の軍艦の数がフランスの保有する軍艦の数を下回ったとのメディアでの報道に端を発する。この当時の「侵攻文学」の特長は、基本的に英国海軍の増大を唱導する、あるいは、英国海軍は十分な防衛力を備えていることを宣伝するプロパガンダであると考えられるが、その中にも経済的繁栄を重視し、海外権益を拡大する英国政府への批判を元にプロットを組み立てた作品も多くあると想定し、研究したい。この研究についても前年度から行っており8月頃を目処に終わらせたい。 8月頃から、これまでの1870年代の研究と現在行っている1880年代の研究をまとめ、11月までに博士論文を書く予定である。 以上が平成27年度の研究計画である。
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Research Products
(3 results)