2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13J01771
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
嶺山 良介 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ヒルベルト幾何 / コロナ / 粗Novikov予想 / 粗Baum-Connes予想 |
Outline of Annual Research Achievements |
「双曲空間」と「ユークリッド空間」に対しては粗幾何学的な性質が詳しく調べられているので、それらを含むより一般的な空間がどんな粗幾何学的構造を持つか、という問題は自然なものである。特に、粗幾何学的構造を反映した良い無限遠境界であるコロナの存在は重要である。そこでユークリッド空間の有界凸領域に定義される距離空間である、ヒルベルト幾何に注目し、その粗幾何学的様相を調べた。ヒルベルト幾何はその領域の形(自然な境界の滑らかさ)によってユークリッド的にも双曲的にもなり得ることが知られており、その粗幾何学的構造を調べることは、包括的な研究の第一歩となることが期待される。この問題について尾國新一氏との共同研究で以下の結果を得た。まず任意のヒルベルト幾何は粗幾何学的に「良い」性質を持つことを示し、さらに領域の自然な境界がコロナとなるための必要十分条件を与えた。これらの系として、粗幾何学の重要な予想である粗ノビコフ予想が狭義凸領域上のヒルベルト幾何において正しいことが分かる。この予想は粗幾何学的に良い空間において粗KホモロジーとRoe環のK群の間の自然な準同型が単射であることを予想するものである。協議凸なヒルベルト幾何は一般に、双曲的でもブーゼマン非正曲率空間でもなく、さらにユークリッド空間と擬等長でないので、上述の結果はそのような空間で粗ノビコフ予想が成り立つ初めての例になっている。また、この研究ではコロナの存在とは異なるアプローチとして漸近次元の計算を行った。具体的には二次元の任意のヒルベルト幾何に対して漸近次元が2であることを証明した。その系として、Yuの結果から二次元のヒルベルト幾何では粗ノビコフ予想における準同型がさらに同型であることを主張する、粗バウム・コンヌ予想が正しいことがわかる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒルベルト幾何学の粗幾何学的観点からの研究は、Papadopoulosによる「タイヒミュラー空間を有界凸領域として実現し、その上のヒルベルト幾何を調べよ」という問題を通してタイヒミュラー空間の粗幾何学的振る舞いを調べるための一つのアプローチになると考えている。本年度の研究はこのアプローチの基礎的事実を明らかにできたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針は、タイヒミュラー空間の複素ユークリッド空間内の擬凸集合への等長埋め込み(ベアス埋め込み)があるという事実から、さらに強くヒルベルト幾何を備えた領域への擬等長同型を探すことである。このようなヒルベルト幾何を見つけることができればタイヒミュラー空間の粗幾何学的性質を反映する無限遠境界を決定できると予想される。
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