2015 Fiscal Year Annual Research Report
脂質ラフトと膜貫通型キナーゼの協働によるシグナル変換機構:1分子追跡による研究
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13J01859
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
平本(山木) 菜央 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 1分子イメジング / 細胞内シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
本提案研究では、『GDNFの細胞内シグナルの時空間制御機構と、それに関わるラフト機構』について、GPIアンカー型タンパク質GFRと膜貫通キナーゼRETの相互作用および活性化機構の解明を目的としていた。 今年度は新たに長寿命な色素を用いて、GFRとRETの細胞膜上での挙動を1分子イメジングで観察した。その結果、常に存在すると考えられていたリガンド刺激後におけるGFRとRETの共局在は全くみられず、むしろGFRとRETの細胞膜上での挙動は全く異なることがわかった。さらに、我々の所有する高分解能高速顕微鏡のセットアップをもってしても、2分子の共局在は観察不可能なほど最速の反応であることが判明した。このことから、GFRとRETの共局在はリガンド結合後、非常に短時間で終了することが予想される。しかし、現在の実験装置ではその反応系は観察出来ない。そこで、同様な脂質ラフトとキナーゼが恊働するシグナル変換機構で、我々の実験装置で観察可能な『FceRIとシグナルアダプター分子SLP-76およびLATの相互作用と活性化機構の解明』を行う事にした。 FceRIはIgE抗体の受容体であり、脂質ラフトで機能することが知られている。抗原の結合によって架橋されたFceRIはLynキナーゼによるリン酸化を経て、SLP-76やLATなどのシグナルアダプター分子を含む複合体を介して、下流へとシグナルが伝達されると言われている。しかし、1分子イメジングの結果、抗原刺激有無に関係なく、SLP-76とLATの共局在はみられなかった。つまり、従来考えられていたようなSLP-76とLATの複合体形成とは異なる分子挙動を示すことが明らかとなった。SLP-76はLATを介して細胞膜上に存在すると言われていたが、LATノックアウト細胞を用いても、SLP-76の分子挙動に変化はみられなかった。この結果は、LATがなくともSLP-76が細胞膜に滞在できることを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は長寿命蛍光タグを用いて再度GFRとRETの1分子イメジングを行った結果、リガンド刺激直後から刺激後5分以上観察しても、GFRとRETの共局在は全くみられなかった。また、その反応系が我々のもつ高分解能高速顕微鏡をもってしても、観察不可能なほどの最速なものであったため、観察する分子を変更する必要が出てきた。新たな分子の探索とそれに伴う実験材料の確保、およびそのシグナル伝達経路の勉強に少し時間を取られたので、計画より多少の遅れが出てしまった。しかしながら、今回の実験系の変更で、観察する分子は変わったものの、『脂質ラフトとキナーゼの協働によるシグナル変換機構』というテーマの本質に変わりはない。 全体の区分としては (3) のやや遅れている にしたが、新たな分子 (IgE-FceRI-LAT-SLP-76) の反応系を用いて1分子イメジングを行い、その分子挙動を観察した点は計画通りである。 また、4月から出産・育児に伴って、現在研究を中断しているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究結果から、SLP-76とLATは抗原刺激有無に関係なく、SLP-76分子クラスターとLAT分子クラスターは共局在しないことがわかった。つまり、従来考えられていたようなSLP-76とLATの複合体形成とは異なる分子挙動を示すことが明らかとなった。 さらに今年度ではLATノックアウト細胞を用いてSLP-76を1分子イメジングを用いて観察したが、LATが存在しなくても抗原刺激によってSLP-76は下流にシグナルを伝達できることが判明した。 今後は、SLP-76が一体どの分子を介して膜上に局在し、さらに抗原刺激を下流へとシグナル伝達させるのか、解明していく。すでにLAT以外の分子候補は挙がっており、CRISPRの技術を用いて候補分子をノックアウトした細胞を作製中である。研究復帰後はこれらの分子をノックアウトした細胞を用いて、SLP-76の細胞膜局在を仲介している分子を同定する。新たに同定された分子とSLP-76の結合寿命や、ラフトを崩壊させた時のこれらの分子挙動、さらにSLP-76の下流分子との結合寿命なども1分子イメジングで明らかにしていく。
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