2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13J01916
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
中川 永 滋賀県立大学, 人間文化学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 考古学 / 水中考古学 / 地震考古学 / 中世考古学 / 琵琶湖湖底遺跡 / 水没村伝承 |
Research Abstract |
滋賀県長浜市祇園町沖合に所在する西浜千軒遺跡において、従来調査できていなかった水域を調査した。 当遺跡は『かって集落が存在したが、室町時代の寛正年間に生じた大地震により湖底に没し、消滅した』と伝承が残る遺跡である。特別研究員採用以前の2012年度段階(修士論文)までに、実際に集落が沈んでいることや、時代が伝承とは異なる天正13年(1586)であることが明らかとなっていた。 2013年度の大きな成果として、沖合約250mまでの地点で、かつての建物や柵列と考えられる柱・杭群を確認した。琵琶湖では以前から柱材の散在する状況は見つかっていたが、プランを復原できる遺構の発見は初めてである。これは琵琶湖のみならず、日本の水中考古学史上においても画期的な発見である。またこれにより、沖合250mの地点が1586年段階で陸地であったことが確認された。今後も調査を継続する必要はあるが、仮説通り沖合の広範な範囲での水没があったことを積極的に肯定する成果と言えよう。 なおこの遺構の発見により、遺跡の成因についても新たな知見を得ることができた。上述の遺構はN35。E前後(あるいは直交するN55°W前後)の主軸方向をもつが、これは立地する坂田郡統一条里(N15°W)とは大きく異なる。以前より遺跡の標高と当時の水位との関係から、地面が沈降したことは明らかであったが、その原因が『地滑り(横方向への動きを伴う沈下)』であるのか、『地盤沈下(生活面が上から下へと沈みこむ動き)』であるのか、決定的な証拠を見出すには至っていなかった。しかし今回の発見により、単純な地盤沈下では大きく軸方向が振るとは考え難いことから、液状化現状に伴う地滑り(側方流動)を原因とする従来の想定を裏付ける考古学的な根拠を得ることができた。 なお、当遺跡では200点を越える遺物を採集しており、このうち年代を導き出せる約80点において資料化を行い、遺跡の消長や性格の変化についても一定の検討を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先述の成果から、西浜千軒遺跡では天正13年の大地震に伴う地滑りにより、現在の湖岸線より遥かに沖合の地点(少なくとも沖合約250m)まで大規模な被害が生じたことを証明できた。また建物・柵列の発見も大きな成果であり、当時の集落景観を復原する有効な考古学的成果を得た。惜しむらくは、台風18号等の影響により湖底の地形図の作成が2014年度にずれ込んだことであるが、概ね計画通り進捗しており、今後も油断なく取り組んでいきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
主な調査対象を、西浜千軒遺跡の南方2.2kmに所在する下坂浜千軒遺跡および、両遺跡の間に所在する長浜城跡へと移す。下坂浜千軒遺跡においては、過去に潜水調査や地質学的調査が行われ天正13年の大地震に伴う地滑り被害が確認されているが、未調査の水域が多い。特に浅瀬部について積極的に取り組んでいきたい。また長浜城跡についても、古文書や城郭研究の視点から同地震による水没被害が想定されるが、実際の状況は全くの不明である。本来は平成27年度に取り組む予定であるが、下坂浜千軒遺跡と接続する水域であることから、両遺跡を一体として調査することによって、より効率の良い調査を行うことができると考えている。なお、西浜千軒遺跡については過去3年間にわたる調査の蓄積があり、これらについて本報告を出版する予定である。
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Research Products
(7 results)