2013 Fiscal Year Annual Research Report
時間と空間の捨象に着目した数学的認識のメカニズムの研究
Project/Area Number |
13J02024
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
上ヶ谷 友佑 広島大学, 大学院教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 数学的理解 / 数理哲学 / 数学的構造 / 数学的知識の構成 |
Research Abstract |
本年度は, 学習者の数学的理解のメカニズムの一端を明らかにするとともに, 学習者を数学的に正しい理解へと導く方法を提案することを目的とし, 以下の3点を実施した. 1点目は, 本研究が採用している数学的理解のメカニズムに関する仮説の哲学的・理論的検証である. 研究方法としては, 当初の計画通り, 先行研究において提唱されている数学的理解のメカニズムに関連する理論を精査するとともに, 哲学的視座から先行する諸理論の問題点を提案するという方法を採用した. 結果として, 先行する諸理論に対して, 数学的構造に着目した再理論化が必要であることを提案した. 実施した研究内容の2点目は, 1点目として提案した観点が, 実際の授業中における児童・生徒の理解状況の説明に有用であるかどうかの事例的検証である. 研究方法としては, 当初の計画通り, 観察研究の承諾を受けた小学校で実際に行われた授業をビデオ記録するとともに, そこでの児童の様子を数学的構造に着目して分析した. 結果として, 先行する諸理論の知見だけからでは必ずしも予見できなかった誤解のパターンを見せる児童の存在を, 本研究の提案する理論的枠組からは予見できる可能性が示唆された. 実施した研究内容の3点目は, 本研究が提案する数学的理解のメカニズムに基づいた, 数学の学習環境の妥当性の事例的検証である. 当初の計画では, 数学的構造にのみ着目して学習環境を設計する予定であったが, 先行する諸理論が提案していた数学の学習に対する社会的影響を加味して, 学習環境を設計し, 大学生を対象として検証を行った. 結果として, 数学的構造と社会的影響の両者に配慮した学習環境が, 学習者の数学的理解を促進する可能性が示唆された. 上記研究成果の最大の意義は, 先行研究からは必ずしも予見できない誤解のパターンを見せる学習者の存在を予見し, そのような学習者へ配慮した数学の学習環境の設計方法に示唆を得たことである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在までに実施した数理哲学的知見から導いた数学的理解のメカニズムを数学の指導へ応用するという試みが, 当初の想定よりも精緻に遂行できたことが主な理由である. それに伴って, 今後順次追加で実施していく実証的検証の部分についても, 当初の計画よりも円滑に実施できる見通しが立ち, 研究の進展は, 当初の計画以上であると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は, 数学的理解のメカニズムに基づいて, 数学を正しく理解する学習者と誤解してしまう学習者との差が何に依存しているのかを具体的に明らかにしていく部分を実施する. ただし, 理解のメカニズムそれ自体は, 当初想定通り数学的構造によって説明することが可能であったが, 正しい理解と誤解の差は, 社会的影響によって説明する必要があると見込まれ, その点は仮説の修正が必要である。また, これを受けて, 実証的検証の計画を, 被験者一人ひとりに対する調査から, 被験者数人ずつで構成するグループに対する調査へと変更する. これにより. 研究計画の科学的妥当性を維持する予定である.
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Research Products
(8 results)