2014 Fiscal Year Annual Research Report
ナトリウムイオン駆動型べん毛モーターのイオン透過と回転エネルギー変換機構の研究
Project/Area Number |
13J02161
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
竹川 宜宏 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 細菌べん毛 / モーター / ナトリウムイオン / 固定子 |
Outline of Annual Research Achievements |
細菌べん毛モーターは、エネルギー変換ユニット=固定子と、回転する本体=回転子から構成される。モーターの回転力発生のためには、固定子を介してイオンが流入すること、固定子が回転子の周りに正しく集合すること、固定子と回転子がダイナミックに相互作用すること、が重要である。本研究では、それらの現象それぞれに着目し、ナトリウムイオン駆動型べん毛モーターの回転メカニズムの包括的な解明を目的としている。 ナトリウムイオン駆動型モーターを持つ海洋性ビブリオ菌のべん毛モーターに着目し、その回転力産生のために重要とされる固定子タンパク質PomAと回転子タンパク質FliGとの間の推定相互作用界面に存在するアミノ酸残基を別のアミノ酸残基に置換する突然変異を導入し、運動能および固定子の回転子まわりへの集合能への影響を調べたところ、大腸菌などのプロトン駆動型モーターと比べ、多数の荷電残基が様々な役割を持って重要であることが判明した。これまで大腸菌などで報告されてきた回転力産生に重要とされてきた荷電残基に加え、新規に重要な残基が発見された。 べん毛モーターの機能をより一般的に検証するために、極限環境に生息する様々な細菌に着目し、それらの固定子タンパク質の遺伝子をクローン化し、発現系/機能解析系を確立した。特に細菌の進化において最初期に分岐した高度好熱性細菌の固定子が、大腸菌のモーター内で機能することを示し、種を超えたモーター回転メカニズムの保存性を明らかにした。この固定子はナトリウムイオン駆動型のエネルギー変換を行うことを示し、モーター固定子の分子進化と水平伝播について明らかにした。また固定子タンパク質の高効率・高純度の大量発現/精製系を確立し、それらの化学量論性を生化学的・物理学的に検証している。固定子を形成する2つのタンパク質のうち単一のMotAのみで多量体を形成することを示す結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで解析されてこなかった新規のべん毛モーター固定子の機能解析系を確立し、その解析により、固定子のイオン選択性について系統的に解析できたことから、ナトリウムイオン駆動型べん毛モーター機能における「イオン透過」に関する現象について新たな知見が得られた。 固定子タンパク質MotAの大量発現・精製系を確立し、その物理学的性質・化学的性質を解析することで、MotAがその複合体形成パートナーであるMotBが存在しない状態でも多量体を形成する能力があることを明らかにし、固定子の「集合機構」について新たな知見が得られた。 大規模な網羅的変異体解析により、固定子-回転子間相互作用の際に寄与する静電的相互作用やアミノ酸残基間相互作用を明らかにし、ナトリウムイオン駆動型モーターはプロトン駆動型モーターと比べ、多くの荷電残基がモーター機能のために重要であること、ナトリウム駆動型モーターに特異的な相互作用が存在することなどを明らかにし、「固定子-回転子間相互作用」について新たな知見が得られた。 それらに加え、解析が難しい高度好熱菌のべん毛運動の解析やその固定子のイオン選択性や機能互換性を解明でき、また高度好熱菌の固定子タンパク質がこれまで調べられた他種の相同タンパク質と比べて発現量・安定性が高いことを発見し、これを用いての構造解析が進捗していることから、当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
大腸菌大量発現系を用いて、安定に発現する固定子タンパク質の遺伝子のクローン化に成功したため、これを用いて大量培養、精製、そして結晶化とX線結晶構造解析を目指す。同時に、X線結晶構造解析以外の構造解析手法(電子顕微鏡を用いた単粒子解析や、化学修飾剤を用いた表面残基の標識実験、架橋剤を用いた複合体の会合状態・化学量論性の解析など)を用いて、固定子およびその構成タンパク質の構造を解明する。それに加えて好熱菌・好圧菌由来のものを含めたいくつかの新規の固定子タンパク質およびその断片に着目し、構造解析に向けたスクリーニングを継続する。これまで明らかにされなかった、固定子タンパク質の分子構造の解明を目指す。 固定子タンパク質・回転子タンンパク質に変異を導入し、運動能への影響の調査やシステイン架橋実験を行なうことで、回転力発生のために直接的に寄与するPomA-FliG間相互作用部位を生化学的に検出することを試みる。また、共同研究で、NMRによる相互作用の検出を試みる。これまで成功例がない固定子-回転子間相互作用のin vitro解析を目指す。 蛍光タンパク質を融合したべん毛モーター構成タンパク質を使用して、タンパク質間相互作用や共局在を観察し、それと同時に固定子を介したイオン透過能を検出することで、べん毛モーターの機能のために重要な3要素、イオン透過・固定子集合・回転力発生という三つの現象の相関関係の解明を試みる。
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Research Products
(7 results)