2013 Fiscal Year Annual Research Report
日本近代文学における学徒兵の読書行為についての総合的研究
Project/Area Number |
13J02479
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中野 綾子 早稲田大学, 教育学研究科, 特別研究員DC2
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Keywords | 日本近代文学 / 読書論 / メディア / 戦争 / 出版 / 学徒兵 / 読者 |
Research Abstract |
本研究は、学徒兵の読書行為を具体的、実証的に調査し、戦場という特殊な空間において読書がいかにして行われ、どのような書物が読まれていたのか、さらに読書行為が学徒兵、また戦時下及び戦後の社会においていかなる意味を持っていたの明らかにすることで、日本近代文学における「読書」の枠組みを問い直していくものである。戦場での読書に関する調査・研究は、その必要性が多様な研究領域から認められているにも関わらず、いままで継続的な調査が行われてきておらず、まずは資料の調査などによってその全体像を掴むことが必要とされている。 当該年度は、戦時下学生の読書関係資料の調査分析を行った。戦時下の日本出版文化協会や文部省の推薦図書運動と学生への思想統制についての考察を行い、20世紀メディア研究所第79回研究会にて発表を行った。また、B級戦犯として処刑された木村久夫の蔵書が収蔵されている高知大学の木村文庫にて調査を実施し、購入古書店名や購入年月日、感想などの書き込みリストを作成しHPに公表した。さらに、蔵書構築や書き込みから判明した戦時下学生の具体的な読書方法の一例として論文を発表した。以上の研究からは、戦時下の学生の読書に対する統制の一端を出版流通とのかかわりから具体的に明らかにすることが出来た。また、戦場での学徒兵の読書行為が戦後の読書行為にどのような影響を与えていたのかについて、堀辰雄を読む学徒兵を視座とすることで明らかにした。本研究の成果は、『日本文学』に掲載された論文として結実している。 さらに、当該年度は戦場においてどのような書籍が読まれていたのかを具体的に明らかにしていくために、慰問雑誌や陣中雑誌の収集、精査をする作業を進めている。講談社『陣中倶楽部』の調査や軍人援護団体による慰問雑誌の収集・調査を継続し、とくに本年度は陸軍南支派遣軍報道部によって広東で刊行されていた『兵隊』という兵隊によって編集・投稿が行われた雑誌についての分析を行い、その研究成果については現在学会誌に投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、戦時下における出版流通の変化から、学生の読書に対する意識や統制がどのように変化したのかを明らかにし、その成果を発表や論文という形で公表することが出来た。さらに、戦後において学徒兵の読書行為が読者にどのような影響を及ぼしていたのかについても具体的に成果として公表することが出来た。だが、戦場での読書の実態の調査については、資料体の確保がより一層必要になることが明らかになったため、次年度も継続して収集・調査を行うこととしている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、戦場での読書行為について「戦時下/戦後」のなかでどのような連続・非連続があったのか、双方を具体的に論究していくことを中心として研究を推進していく予定である。 とくに、前年度から調査を継続している戦場で読まれていた雑誌や書籍およびその流通関係の資料収集・調査についてはより重点的に行っていく予定である。また、戦場で読まれていた慰問雑誌を所蔵する各出版社とも前年度に引き続いて調査を行うように打ち合わせを行っている。まずは、以上に述べてきたような資料体の状況を明らかにしていくことで、いままで明らかにされていなかった戦場における読書行為の実態について解明を進めていく。
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Research Products
(5 results)