2014 Fiscal Year Annual Research Report
現代インドにおける女性の世捨てと社会参加-「超俗的フェミニズム」の実現可能性
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13J02529
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
濱谷 真理子 京都大学, 東南アジア研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 宗教 / ジェンダー / 南アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、現代インドで、女性が「世捨て」という文化装置を通じていかに自律的な生き方を確立しているのか、修行としての社会奉仕活動に着目して明らかにすることである。本年度は、前年度までのフィールドワークの成果をまとめて発表することと、ギーター・クティール修行道場での社会奉仕活動の調査をすることを、主な研究計画としていた。以上の研究目的と研究計画に沿って、修行道場における女性行者の托鉢実践と施食活動、女性行者と男性行者のパートナーシップ、の二点について、学会発表、論文執筆を行った。 (1)当初は生活戦略論という視点から、托鉢実践におけるジェンダー差別とそれに対する女性の戦略について議論し、日本文化人類学会第48回研究大会で口頭発表を行った。一方、考察を深めていく過程で、贈与に付随するモラリティの問題に着目するようになった。そして、欲望や感情をコントロールし、獲得した施しをいかに他者に分け与えるかという女性の美学が、日々の托鉢実践に節度としてあらわれ女性たちのあいだの水平的な社会性を支えていることを明らかにした。以上の議論を、学術論文として執筆済、現在投稿を準備している。 (2)正統ブラフマニズムにおける男性主体の禁欲主義の理念は、一方で女性蔑視やジェンダー差別を生み出してきた。しかし、禁欲主義よりも女性が重視するのはともに暮らす男性パートナーへの奉仕や他者への慈愛という倫理である。男性行者の場合、女性とともに暮らすことは不名誉に結びつくが、女性行者の場合はむしろ特定の男性パートナーと暮らしていかに献身的に奉仕をしているかが、修行者としての評価や名声につながる。女性たちによる男性とのいわば合同修行が、男性中心修行主義へのオルタナティヴとなりうる可能性を、現在執筆中の学術論文で議論をすすめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、フィールドワークの調査成果をまとめ、論文や学会発表の形でアウトプットすることを目的としていたので、その点はおおむね順調に進展したといえる。ただ、当初予定していたヴィシュヌ派女性行者のサーベイ調査にかんしては、研究の進捗状況及び調査時期・期間の都合から、十分に遂行できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題である、女性行者たちにとっての在地のフェミニズムのあり方を考察するためには、前述した(2)の論点は、慎重に検討していく必要がある。というのも、男性行者とのパートナー関係では、しばしば女性への暴力や差別の問題がみとめられるうえ、奉仕が美徳として評価されるのは世俗の女性観とも重なっており、既存のジェンダー規範の再生産に女性行者自身が加担しているという点も見過ごすことはできない。しかしながら、これまで男性主体のものと考えられてきた世捨て、その根幹にある禁欲主義に対し、女性たちが愛する他者との合同修行を選択するのは、現実生活の必要性や互いの感情や修行とのあいだで葛藤しそれらを折衷しながら、女性行者がより生きやすくなるような生き方の選択肢を示しているとも考えられる。 以上の問題点に留意しながら、今後は、女性行者たちが依拠する親密性が、どのように女性の自律性を確保するための力になりうるのか、事例の考察をすすめる。そして、親密な関係性でみられる奉仕の実践や愛の倫理が、女性をエンパワーメントするような公共的な社会奉仕活動へ展開される可能性について、検討していく。
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Research Products
(2 results)