2013 Fiscal Year Annual Research Report
高エネルギー重イオン衝突反応におけるジェットとQGP流体のダイナミクスの統合
Project/Area Number |
13J02554
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橘 保貴 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | QGP / 相対論的流体力学 / ジェットクエンチング / 高エネルギー重イオン衝突 |
Research Abstract |
本研究ではジェットからのエネルギー・運動量流入によるQGP流体中の流れを相対論的流体力学を(3+1)次元空間で数値的に解くことで記述する。その際、高エネルギー重イオン衝突実験により則した計算を行うため、座標系にはカーテシアン系ではなく、膨張する座標系(Milne座標系)を用いる。このMilne座標系における相対論的流体方程式を書き下し、Piecewise Parabolic Method (PPM)という流体の移流を2次の精度で扱う非常に精度の高い手法を用いた相対論的流体方程式の解を求めるコードの実装を行った。本研究で注目している、QGP中での流れを引き起こすジェットが受け渡すエネルギー・運動量は、QGP流体全体のもつエネルギーに比べると非常に小さい。そのため、流体中でのエネルギー・運動量保存則は数値計算の中で非常に高い精度で守られてなければならない。しかしながら、本研究を進める中で、従来膨張座標系における相対論的流体方程式の数値計算でよく用いられている手法では、その座標系が膨張している方向に関して、数値計算のための離散化が適切ではないことによる、エネルギー・運動量保存の精度の低下があることが明らかになった。本研究では、このエネルギー・運動量保存の精度の低下は致命的であるため、膨張座標系での数値計算おいてより適切な離散化を行い、さらに移流を求める手法とも整合性のとれた新たな手法を開発した。この新手法を用いて膨張座標系における相対論的流体方程式の数値計算コードを実際に実装を行い、エネルギー・運動量保存が非常に高い精度で守られていることを確認した。さらに、上述のコードを用い、実際の高エネルギー重イオン衝突実験で生成されるような膨張するQGP流体中をジェットが通過するような場合のシミュレーションを行った。その結果、QGP流体由来の粒子がジェットの周りの広い角度にわたって励起され、特に大角度においては非常に多くの低運動量がジェットが損失したエネルギー・運動量を担っていることを示した。この結果は、上述のLHCでのCMSグループの実験と定性的に一致した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
数値計算コード実装の時の困難のために、当初の計画ほどの研究結果はでていない。しかしながらそのコード実装の困難に対する解決であるあらたな手法は、本研究課題のみならず、現在主流となりつつある他の多くの研究に対しても非常に有効なものである。
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Strategy for Future Research Activity |
数値計算コードの根幹的な部分の実装はほぼ完了したので、まず現在可能な計算を進め、解析を行う。同時に、今後の新しい計算のための数値計算コードの実装も同時に進めていく予定である。
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