2013 Fiscal Year Annual Research Report
沿岸性魚類の遺伝的多様性の形成にかかわる生態的特性の解明-スジハゼ3種の比較研究
Project/Area Number |
13J02639
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松井 彰子 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 遺伝的集団構造 / 遺伝子流動 / 仔魚分散 / 生息環境 / 生息域 / スジハゼ |
Research Abstract |
本研究は, 沿岸性魚類において生態的特性が遺伝的集団構造の形成に与える影響の解明を目的としている. この目的達成のため, 日本列島周辺海域の広範で同一湾内に生息するハゼ科キララハゼ属の3姉妹種をモデル生物として, 従来は個別に行われてきた「生態的特性の把握」と「遺伝的集団構造の把握」を包括し, 両者の関係性を検討する. 3種仔魚の同一湾内での分布を把握するため, 平成24年度以前に若狭湾で3種の仔魚標本を採集し, 本年度にかけて遺伝的手法による種判別および日齢査定を行った. 仔魚の水平分布は, 成魚が湾奥部にのみ分布する種では成魚の分布と概ね一致したのに対し, 成魚が湾央部にまで分布する種では成魚より沖側にも分布していた. 鉛直分布は, 3種ともに艀化後約1週間までの夜間に流れの影響を受けやすい表~中層にも出現したが, その後は1日をとおして主に底層に出現した. このことから, 3種の仔魚が表~中層に浮遊する期間は同程度であるが, 成魚の分布域に応じて仔魚の流されやすさが異なるために, 仔魚分散の大きさが種間で異なると考えられる. また, 3種の遺伝的集団構造を調べるため, 分布域から網羅的に標本を採集し, ミトコンドリアDNAの音分塩基配列を決定した. その結果, 湾奥部の浅場に生息する種では地点間の遺伝的差異が大きく遺伝的雲団が地理的に強く偏って分布する一方で, 湾央部の深場にまで生息する種では地点間の遺伝子差異が小さく遺伝子型の地理的な偏りがほとんど認められなかった. 以上のことから, 3種をはじめとする沿岸性魚類において, 成魚の生息域の開放性が仔魚期の分散をとおして集団間の遺伝子流動の大きさに影響を及ぼすことで, 遺伝的集団構造の形成に大きく寄与する可能性が示唆された. この成果は基礎的知見としてだけでなく, 遺伝的多様性保全の観点から沿岸性魚類の保全単位を決定する際の生態的根拠になるなど, 応用的知見としても意義があると考える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
仔魚の分布状況の把握については, 採集済みの全ての仔魚標本について種判別と耳石解析を行うことができたため, 計画通りに進展している. 3種の遺伝的集団構造の解析については, 計画以上の効果で標本を収集でき, 潜存的小息地図の作成については, 狭域で作成した分布モデルの広域への当てはまりが悪いので, やや遅れている.
|
Strategy for Future Research Activity |
遺伝的集団構造と生態的特性との関連性についてより客観的に検討するには, 各種の生態的特性を示す数値データが必要となるが, 生息域に関する変数(開放性や面積など)についてはまだ数値による評価ができていない. 生息域の開放性については, 開放度や湾の階層性によって評価可能である. また, 生息域の面積や生息域間の距離については, 広域に当てはまる分布モデルを作成すれば概算できる。今後, これらの手法を用いて生息域を客観的に評価する必要がある. また, 遺伝的集団構造の解析については, 用いた個体数が不十分であるために各種の分布限界付近など一部の地域で地理的な集団構造が不明瞭となった可能性が考えられた. 今後, それらの地点において追加で採集を行い, 解析個体数を増やして解析の精度を高める必要がある。
|
Research Products
(5 results)