2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13J02841
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
根岸 陽太 早稲田大学, 法学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 米州人権条約 / 賠償義務 / 国内法の条約適合解釈 / 条約適合性の統制 / 国際法と国内法の関係 / 欧州人権条約 / 補完性原則 / パイロット判決手続 |
Research Abstract |
本研究の目的は、個別国家の利益を超えた集合的利益を保障するために、二辺的・国家間関係に還元され得ない対世的義務違反に対する救済について考察を加えることにある。 本年度初期は、米州人権条約の実施における賠償義務の機能について研究を行った。この研究では、賠償義務が、被害者に生じた損害の填補のみならず、国内法の改廃など一般的措置を責任国に賦課することで、違反によって毀損された条約秩序の回復にも寄与することを明らかにした。さらに、立法府による国内法の改廃が実現するまでの期間に、米州人権裁判所が司法府に対して、条約に適合しない国内法を適用しない、または関連する国内法を条約適合的に解釈するよう要求する実践を捉えることに成功した(条約適合性の統制(the conventionality control))。この実践に基づくと、国内法の米州人権条約との適合性が、条約上の一般的義務(一次規則)だけでなく、当該義務が違反された場合に事後的に国内法の改廃・不適用を要求する賠償義務と、そもそも事前的に義務違反が生じないようにする国内法の条約適合的義務(二次規則)によっても確保されうることが明らかとなる(以上を「米州人権条約の実施における賠償義務の機能(1)・(2・完)」『早稲田大学大学院法研論集』第148号・第149号に掲載)。 本年度中期・後期は、欧州人権条約の実施を素材として、条約適合性の統制を行う主体(人権裁判所・国家機関)の管轄権配分を規律する補完性原則に関して考察を行った。この研究では、欧州人権裁判所が補完性原則に基づき、国内法の改廃など一般的措置を責任国に命じるパイロット判決手続について分析を行った。この際、米州人権裁判所と同様に、欧州人権裁判所も責任国による適切な判決執行を確保するために、個別の国家機関(立法・行政・司法)を名指する実践に踏み切っていることを確認した(以上の一部を若手人権問題研究会で報告)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、米州・欧州人権条約の実施を実証的に分析することを主目的としていた。しかし、現在では、それらの分析から抽出した法過程を「国内法の条約適合性の統制」として規範的に分析しつつある。具体的には、(1)当該統制を行う主体(人権裁判所と締約国(機関))を規律する補完性原則、および(2)当該統制の対象(国内法)と条約規範の関係といった国際法学の総論につながる論点を考察している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、米州・欧州人権条約の実施に関する実証的分析を深めるとともに、「国内法の条約適合性の統制」に関する規範的分析を推進する。(1)統制主体に関しては、人権裁判所が補完性原則に基づき国内法秩序へ介入する過程、およびその帰結として締約国(機関)と人権裁判所の両者による分散的統制が行われる過程を分析する。(2)統制対象に関しては、条約規範と国内法の関係(国際法優位原則の再検討、国内法秩序における条約規範の地位)、両規範の抵触を調整する法的根拠(一次規則 : 条約上の一般的義務、二次規則 : 責任・解釈規則)、人権裁判所の効力(既判力、解釈上の有権力)を分析する。これらの分析を通じて、国内法の条約適合性の統制が上層(人権裁判所・国際法)および下層(締約国・国内法)の双方向から、立憲的かつ多元的に実現しうることを論じる。
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