2014 Fiscal Year Annual Research Report
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13J02841
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
根岸 陽太 早稲田大学, 法学学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 米州人権条約 / 欧州人権条約 / 憲法裁判所 / 合憲性/条約適合性統制 / 発展的解釈 / 補完性原則 / 国際法/憲法の優位性原則 / プロ・ホミネ原則 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、二辺的・国家間関係に還元され得ない集合的利益を保障する対世的義務の違反に対する救済について考察する。対世的性格を有する国際人権保障では、締約国が条約基準に適合しない国内法制度を維持するために、それを根本的原因として人権侵害を構造的に引き起こす場合がある。この問題の解決に向けて、(I) 人権裁判所が立憲的原則の観点から国内法秩序を再構築する「国際裁判の立憲化」と (II) 国内裁判所が憲法基準と人権基準の双方に照らして国内法の司法審査を行う「憲法裁判の国際化」が現出しつつある。これらの同時並行的な現象を背景として、本研究は、人権裁判所と国内裁判所が国内法の条約適合性を統制する過程を考察する(以下、条約適合性統制)。 (I)「国際裁判の憲法化」に関しては、「人権裁判所の条約適合性統制権限の補完性」を分析した。条約機関の役割は国内法制度を補完する性格に留まるため(補完性原則)、人権裁判所による国内法の司法審査は、締約国に人権保障に関する裁量認められる限り、民主的正統性の観点から控えられる。しかし、構造的人権侵害の原因が特定された場合には、当該欠陥を是正するための特定の救済措置が命令され、さらには、その救済措置の実施に責任を有する国家機関(特に国内裁判所)が指名される場合がある。 (II)「憲法裁判の国際化」については、「国内裁判所による条約適合性統制の適用」を論じた。下層からの人権条約の憲法化と評価されるように、人権条約は国内法秩序における形式的地位を超えて、憲法基準を補完するかたちで適用されうる。このような相互作用を考慮すると、「国際法や憲法の優位性(最高法規性)」という法規範の形式的優位性の判断は不適切である。むしろ、同時に存在する多様な規範のなかで個人に最も利益をもたらす判断を解釈者に要求する「プロ・ホミネ原則」に基づき、人権条約と憲法の実質的優位性が評価されるべきである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、条約適合性統制概念の分析枠組として、(A) 条約適合性統制基準:国内法を統制するための人権条約上の基準、および (B) 条約適合性統制権限:規範統制を実施するための人権裁判所と国内裁判所の権限を措定し、それぞれを (I) 国際裁判の立憲化と (II) 憲法裁判の国際化の各現象に当てはめて分析を進めている。これらの分析は、米州・欧州人権裁判所および国内裁判所の判例を検討する実証的側面と、それらの実践に対して正当化または批判を加える規範的側面を有している。 前述のように、(I-B)「人権裁判所の条約適合性統制権限の補完性」に関しては、米州・欧州人権裁判所判例の実証的分析に基づき、条約機関と国家機関の関係を規律する「補完性原則」の観点から規範的分析を行った。その結果、条約適合性統制権限が特定の機関に排他的に委任される「集中的条約適合性統制」ではなく、人権裁判所と国内裁判所に非集中的に配分されるという「分散的条約適合性統制」を支持するに至った。 また、(II-A)「国内裁判所による条約適合性統制の適用」については、米州・欧州人権条約締約国の国内裁判所判例の実証的分析を踏まえて、個人に最大限の保障を与える「プロ・ホミネ原則」に照らした規範的分析を加えた。結果として、国際法または憲法の優位性が固定され、他の法秩序との相互作用を断つ「閉鎖的ピラミッド」型の規範階層ではなく、国際法と憲法が共通して上底部分を構成し、他の法秩序の規範内容を取り入れることを可能とした「透過性を備えた台形」規範階層を支持した。 以上から、分析枠組全体が示す4つの論点のうち、2つの論点について完成を迎えている。また、残りの2つの論点についても、次項で詳説するように、実証的・規範的分析を順調に進めている。よって、本研究課題は、総体として当初の計画以上の達成度を見せていると評価しうる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、上記の分析枠組のうち残された2つの論点の分析を完了させたうえで、研究課題全体の完成を目指す。 (I-A)「人権裁判所による条約適合性統制基準の解釈」に関しては、人権裁判所が人権条約を生ける文書として捉え、時間の変化と現在の事情を考慮して、条約の趣旨及び目的に重点を置いた発展的解釈を展開する実践を捉える。その際に、人権裁判所は必ずしも人権条約の形式的枠組に囚われず、プロ・ホミネ原則に基づき、個人に対して広範な保障を与える他の国際的・地域的・国内的文書を参照した動態的な解釈を行っている点に配慮する。さらに、人権裁判所の判決は、形式的には争訟事件当事国にのみ判決執行を義務づける既判力を有するが、判例として集積することで、実質的には全締約国に判例上の解釈を遵守するよう義務づける対世的な解釈上の効力も伴うという点も考察に含める。 (II-B)「国内裁判所間での条約適合性統制権限の配分」については、各国の違憲審査制を踏まえて、主に憲法裁判所と通常裁判所の間での権限配分について考察する。国内裁判所による規範統制は、憲法裁判所のみに権限を認める集中型と、すべての裁判官が権限を有する分散型に区別される。補完性原則を基礎とする条約適合性統制権限は、各国家機関の権限の範囲内での実現が認められるため、これらの合憲性統制権限の形式的配分に服する。しかし、集中型審査制のもとで違憲審査権限を欠く通常裁判所であっても、人権条約と国内法の適合性確保に関しては権限を有する場合がある。そこで、本研究では、人権裁判所と国内裁判所の間での条約適合性統制権限の分散に加えて、国内裁判所間でも憲法裁判所と通常裁判所を含むすべての裁判官に条約適合性統制権限が分散されることを論証する。 これら2点を含めて、結論として、国際法学と憲法学に跨る「国際法と国内法の関係」という理論的問題に対して本研究課題の回答を提示する。
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