2013 Fiscal Year Annual Research Report
紛争後社会の再構築と人々の和解に関する地域研究 : ウガンダ北部アチョリを事例
Project/Area Number |
13J02856
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川口 博子 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ウガンダ共和国 / アチョリ / 国内紛争 / 賠償 / 儀礼 / 弔い / 慣習法 / 国内避難民 |
Research Abstract |
本研究の目的はウガンダ北部紛争を事例に、①人びとが経験した死や暴力の記憶をいかに対処するのか、ならびに②人びとが死や暴力によって亀裂が生まれた社会関係にいかにして対処するのか、について事例をもとに考察することである。 ①紛争による死者の弔いに関する研究成果 紛争下では、政府軍や反政府軍による虐殺のほかに、国内避難民キャンプでの劣悪な生活の中で栄養失調や病気によって多くの人びとが死亡した。このような死の経験に対して生き残った人びとは、どうしようもない実情を根拠として弔いことを棚上げしたり、紛争下では不可能だった葬送儀礼をおこなったり、紛争下での死にほかの原因を付与してそれに対処することで紛争による連続した死の記憶を修正したりしている。詳細な事例研究をおこなうことで、実践的な面では紛争後社会における社会の再構築の過程を明らかにすることができるだけではなく、学術的な面において災因論や死生観に関する研究に貢献することができる。 ②紛争下での暴力によって亀裂が生まれた社会関係への対処に関する研究成果紛争下には、さまざま主体から一般住民に対して暴力行為がおこなわれた。本研究では、政府軍や反政府軍によるものではなく、隣人であった一般住民間で発動した暴力による死を対象にしている。調査地ではこうした死によって生じた社会関係を清算するために、伝統的首長を介した調停がひらかれ賠償の受け渡しがおこなわれている。本研究では調停から賠償の受け渡しまでの過程を詳細に記述した。この研究をとおして、近代西洋法だけでなく地域社会のなかの潜在的な紛争処理能力とその実践を明らかにすることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
わたしは平成25年度に、2度にわたってウガンダ共和国での現地調査を実施した。その際には、データの整合性を確実にし、地域間に存在する差異を比較するために広範囲のなかから複数の調査村を選択した。これによって、ウガンダ北部紛争のなかで起こった死と暴力に関して、地域社会や血縁社会が共有する記憶と亀裂がはいった社会関係の再編に注目して文化と法との両側面から人類学的な研究をおこなった。さらに、まだ報告数の少ないウガンダ北部で流行している「うなづき症候群」という病気と紛争下における死の関係についても調査を開始した。現在は、学術雑誌に投稿するふたつの論文の仕上げをおこなっている。また、エッセイの執筆、学会発表やシンポジウムでのなどの口頭によって、短期間で調査報告を継続的におこなうことにも力を注いだ。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの研究では、地域社会(具体的にはアチョリという民族集団が暮らす地域)を対象に調査を進めてきた。今後は、それぞれの地域社会のなかでの人びとの移動や生活に関する聞き取りをおこなうことで、紛争期の社会状況全体をあきらかにする。また民族内だけの関係でなく隣接する牧畜民との関係の変容に関する調査をおこなう。アチョリの人びとは、紛争期のことを語るときに、牧畜民が多くの家畜を略奪したという。ただし牧畜民による家畜の略奪は紛争期以前から頻繁におこなわれていたのであるが、同時にアチョリと隣接する牧畜民は友人関係や婚姻関係など密接な社会関係も結んできた。本研究では、紛争下における政府軍・反政府軍の動向や、政府による政策がいかに民族間関係に影響を与えたのかを明らかにして、今後の展望を検討する。
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