2014 Fiscal Year Annual Research Report
紛争後社会の再構築と人々の和解に関する地域研究:ウガンダ北部アチョリの事例より
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13J02856
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川口 博子 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 地域紛争 / 賠償 / 死 / 慣習法 / 弔い |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでわたしは、ウガンダ北部に暮らすアチョリの人びとを対象に慣習法にもとづいた殺人に対する賠償に関する研究をおこなってきた。同地域では1980年代後半から20年にわたる地域紛争が続いたが、国際社会による平和構築活動をへて、現在人びとはそれぞれのやり方で紛争経験に対処しながら自立的な日常生活を営んでいる。アチョリにおける慣習法とその執行者である伝統的首長(以下、首長)は、平和構築活動のなかで「伝統的な和解」のやり方として注目され、さまざまな援助主体から支援をうけてきた。そして首長は、宗教的指導者、地方政府そして地域の人びとに受容され、権力を維持しようと活動してきたし、援助主体によってそれらの活動が報告されてきた。ただし賠償による「伝統的な和解」は、多くの場合には当事者親族間の関係を改善するものであり、殺人者や死者の親族のトラウマを治癒するものとして機能的にとらえられ、賠償に関わるさまざまな人びとの多様な行動と目的は捨象されてきた。昨年度から今年度にかけて、わたしはこのような援助主体が去ったあと、または関与しない場において、人びとがいかにして①首長を認識し、②首長の権力にもとづいた制度に参与し、③そのことによってなにを実現しようとしているのかを明らかにするために調査を継続してきた。まず①を明らかにするために、首長が開催する調停や会議に調査することで、当事者が首長による調停や会議を選択することにいたる過程と出席者同士の社会関係を明らかにし、出席者の発言を分析した。次に②と③に関連して、殺人が起こってから調停をへて賠償の受け渡されるまでの過程を分析することで、賠償の受け渡しによって実際に実現されること/されないこと、そして人びとが実現しようとしていることを明らかにしてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2014年度、わたしは学術大会で1回の口頭発表をおこない、この発表と昨年度の口頭発表の成果のそれぞれを学術誌に発表した。わたしの研究の中心的なテーマは、紛争後社会の再構築であるが、これらの学術論文においては、土地問題と紛争下における死者の弔いをとりあげた。前者では、人びとが紛争後社会において生業基盤を再建して、自立的な生活をおこなううえで、もっとも重要であるとともに近年では頻発・混迷した課題である。後者は、人びとの紛争経験そのものや紛争期の死者に対する弔い、すなわち寸そう経験に対する地域固有の社会的な対処をあつかった。つまり、紛争後社会における日常生活を経済的活動と文化的活動の両側面から分析してきた点において、包括的な研究が進んでいるといえる。またわたしは2015年1月から、ウガンダ共和国に10カ月の長期調査を実施している。これまでに調査地で形成した社会関係や蓄積した知識があるので、本調査をもって博士論文を執筆するために十分な成果をえることができると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
①国家法と慣習法の関係に関する研究 慣習法による殺人や過失致死に対する賠償の支払いは、警察の捜査状況や裁判の進行と密接に関連している。第一に、賠償の調停での会話の下記お越しや当事者への聞き取りをおこなう。次に検察庁や裁判所の記録をもちいて、国家法による裁定のなかで賠償のうけわたしがいかにして機能しているのかを明かにする。そして人びとが殺人や過失致死をめぐるもめごとにいかにして対処しているのかを明らかにする。
②地域紛争をめぐる国際刑事裁判所の介入 ウガンダ北部では20年以上にわたって地域紛争が続いた。国際刑事裁判所は反政府軍の指導者を起訴し、2015年以降、指導者のひとりであるDominic Ogwengが投降したことで、調査地においても住民の意見・証言徴収をおこなっている。このような集会のあとに、人びとは元反政府軍兵士に対してさまざなに語る。恩赦を与えるべきである、あるいは罪に問うべきであるという相反する意見が飛び交うが、その根拠となる語りには、同地域ですでに恩赦を与えられて生活する元半政府軍兵士に関連することも少なくない。つまり国際刑事裁判所の介入は、少なくとも言説のうえでは地域社会において「赦された」元半政府軍兵士が紛争下でおこなった行為を間接的に再検討するものであると考えられる。このような状況において、元半政府軍兵士と一般住民への聞き取りや参与観察をとして、現在における地域住民と元半政府軍兵士の社会関係を再検討する。また国際刑事裁判所の起訴材料にもなっている調査地でおこった虐殺をめぐって、地域の人びとはNGOや国際刑事裁判所を巻き込んで追悼集会や記念施設の建設を進めようとしている。このような紛争経験の再構成の過程と具体的な語りや行動を記述する。
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