2014 Fiscal Year Annual Research Report
合意形成場面における信頼:機能および規定因に関する実証的研究
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13J02905
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐藤 浩輔 北海道大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 信頼 / 公共的意思決定 / 合意形成 / プリンシパル=エージェント問題 / 制度信頼 / 組織への信頼 / リスクコミュニケーション / 社会心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、合意形成問題における信頼を巡る諸問題群についてプリンシパル=エージェント関係の分析などの切り口から、調査および実験を用いた検討を行うものである。本年度は、次の3点に取り組んだ。 1.風力発電を巡り対立が生じた事例について、過去の研究と比較検討するために調査を実施した。昨年度は係争的な事例として、銭函海岸における風力発電所建設計画を扱った。この事例では事態が紛糾し事実上の計画中止となった。本年度はこれとの比較のため、穏当に推移している事例調査を行った。具体的には、銭函海岸の近郊である石狩湾新港地区にて現在計画されている風力発電所の事例を題材とした。係争的な銭函の事例では推進/反対全ての主体で信頼が低かったのに対して、穏当な石狩湾新港の事例では、推進主体への信頼が高かった。 2.合意形成が必要な社会問題を考える場合に、議題設定(問題をどうとらえるか)の違いが与える影響を実験的に検討し、その結果を国内学会で報告した。合意形成においては、そもそも問題自体がどのような枠組みで議論されているかという議題設定が重要となる。議題設定を操作したシナリオ実験を行なったところ、係争的な枠組みでは、個々の論点の評価が全体の評価に影響しておらず、問題を精査しなくなる可能性が示された。 3.制度信頼を考える上で重要な、組織とその成員への信頼についての関連を明らかにするための調査を実施した。合意形成問題においては、様々な組織が主体として登場する。組織を実際に構成し、行動する主体は個々の構成員であるが、その信頼が組織全体への信頼とどのように関連しているのかを検討するために、質問紙調査を行なった。予備的研究で作成したシナリオを用い、組織への信頼と個人への信頼の関連を調べた。国内学会において結果を報告する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
風力発電に関する追加調査より、信頼の機能についてより妥当性の高い分析結果を得た。調査から信頼をもたらすメカニズムが明確になった。係争的な事例と穏やかに経過している事例を比較すると、いずれも行政や反対する主体への信頼は低く、計画に反対するほど行政の決定プロセスが公正であるかどうかを重視するという結果では一貫していた。すなわち、低信頼状況では手続き的公正が重要であるという知見をより確かなものとした点で、研究が進展している。 シナリオ実験より、議題の設定の仕方によって、問題の評価の仕方が異なっており、特に問題が係争的な場合には、個別の論点への評価が問題全体の総合的な評価に与える影響が弱くなっており、ステークホルダーが争う場合には問題への精査がなされないという可能性が示唆された。様々な論点を多面的に評価する必要があるときに、ステークホルダーの対立が強調されすぎることは熟考を妨げることを示した点が成果である。 さらに、個人への信頼と組織への信頼との関連については、一般に成員個人の行為への評価が組織全体への評価と結びつきやすいということは考えられているが、一個人への信頼と組織全体への信頼とがどのような場合に結びつくかについてはこれまで体系だった説明は行われてこなかった。実質的には個人の集合である組織全体への評価と、その成員を代表するとみなされる個人への評価との関連を体系的に整理したという点で意義がある。 以上を総合的に鑑み、全体の進行状況はおおむね順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度に国際学会にて発表した研究(銭函風力発電を巡る事例)について、他の研究者との議論を受けて行った追加の分析を行い、査読付英文誌に投稿する。 議題設定効果に関する研究では、社会問題が係争的になる、すなわち公共的意思決定場面においてエージェントとなる主体同士で論争が起きていると、個別の論点を精査するのではなしに主体への評価(信頼)が問題全体への評価に関わってくるという可能性が示唆された。しかしながらこれはあくまで間接的な測定に過ぎず、情報処理の仕方が異なっていることを直接的に示しているわけではない。そこで、より詳細に情報の処理の仕方の違いを示せる実験パラダイムを用いて検討する。 組織への信頼と個人への信頼の関連については、個人に対する信頼と、組織に対する信頼の関連の程度は否定的なことがらの方が、肯定的なことがらよりも強いこと、行為の意図性が明確な場合のほうが信頼がより低下することが示された。これらの結果を国内学会で報告すると同時に、行為の意図性を操作した実験を実施する予定である。 また、既に得られている結果をまとめ、博士論文を執筆する。
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Research Products
(7 results)