2013 Fiscal Year Annual Research Report
有機触媒-基質間における不斉反応場に働く分子間力の解明:気相分光からのアプローチ
Project/Area Number |
13J02937
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
池田 貴将 九州大学, 理学研究院, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 超音速ジェット法 / 光イオン化法 / 赤外分光 / 水素結合ダイナミクス / 水素結合揺らぎ / 溶媒和クラスター |
Research Abstract |
有機触媒―基質複合体の立体構造は, 複合体全体に働く様々な分子間力によって決定される. また, 複合体内の分子間結合様式は, 極低温下では固定されていても, 系内の内部エネルギーが上昇するにつれ, 分子間力の及ぶ範囲内で変化できる柔軟性を持つ. そこで, 本研究では分子間結合の柔軟性について基礎的な知見を得るため, 単純な複合体の1つであるベンジルアルコール水和クラスター(BA-(H_2O)_1)を対象に気相赤外分光を行った. その結果, 主に以下の2点で新たな知見が得られた. 1. BA-(H_2O)_1→[BA-(H_2O)_1]^+における「溶けた」クラスターの観測BA-(H_2O)_1の光イオン化によって生成された[BA-(H_2)O_1]^+は, 高い内部エネルギーを有する. このとき, クラスター内には水分子がBAのOH基に水素結合した[BA(H-bonded)-(H_2O)1]^+と, OH基に水素結合を形成せずOH基が自由な状態である[BA(Free)-(H_2O)_1]^+の2種類が共存していることを, 赤外分光を用いて観測した. 赤外スペクトルを分析した結果, この共存状態は水素結合が完全に「溶けた」状態であり, 水分子が複数の水素結合サイトを揺らいだ状態であることが明らかとなった. これにより, 複合体間の分子間力が内部エネルギーに応じて柔軟性を持つ様子を, 孤立気相中の複合体で観測可能であることが示された. 2. BA-(H_2O)_2→[BA-(H_2O)_1]^+における「溶けた」クラスターと「凍った」クラスターの共存BA-(H_2O)_2を光イオン化し, 後に水分子の蒸発を伴って生成された[BA-(H_2O)_1]^+は蒸発冷却の効果により, BA-(H_2O)_1の光イオン化で生成される[BA-(H_2O)_1]^+に比べ内部エネルギーが低下する. この場合における共存状態では, 水素結合が完全に「溶けた」状態ではなく, 水分子が揺らいでいない「凍った」状態が部分的に存在することを見出した. これは, 複合体における分子間力の振る舞いが, 系内の内部エネルギーと強く相関があり, 実効的な異性化障壁について揺らぎの有無から決定できる可能性を示している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
内部エネルギーに応じた分子間結合の柔軟性について, 水和クラスター中の水素結合ダイナミクスから基礎的な知見を得るという当初の目的はおおよそ達成された. ただし, 研究の進展にあたって, 水素結合ダイナミクスにおける内部エネルギーと異性化障壁の相関をより詳細に調査する必要があり, この点で課題が残る.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は, 水素結合ダイナミクスにおける内部エネルギーと異性化障壁との相関を, 新たな手法を用いて調査する. これまでは, 水和クラスターの内部エネルギーを蒸発冷却によって制御していたが, この手法では系の内部エネルギーについて定量的な議論が難しい. そこで, 新たに2波長共鳴多光子イオン化法を採用し, 系の内部エネルギーをイオン化に使用するレーザー波長によって制御することで, 現在抱える問題の解決に取り組む.
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Research Products
(8 results)