2014 Fiscal Year Annual Research Report
ハーマン・メルヴィルのゴシック的描写にみる環太平洋的想像力
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13J02980
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
田ノ口 正悟 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | Herman Melville / Transpacific / Gothic / Native American / Orientalism / Egypt / Asia |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度(平成26年度)の研究は大きく分けて次の3点から進めた。まず1点目は、ハーマン・メルヴィルの太平洋表象がいかに同時代的な最先端の科学言説、そして伝統的な言説を用いて構築されているかを分析した。メルヴィルは太平洋、あるいはそこに住まう他者を描くときに、19世紀中庸のアメリカに広く普及していた言説を巧みに用いていた。それは例えば、メルヴィルが太平洋を描く際に、そこにオリエントのイメージを重ねたことからも分かる。彼の太平洋表象には、当時の最先端の学問のひとつとされたエジプト考古学のイメージが使われる一方で、アメリカのアイデンティティを補強して強化するような聖書学的なオリエントのモチーフが用いられていたことが分かった。2点目は、太平洋というアメリカ本土から遠く離れた土地を描き出す際に、メルヴィルが必ずしもエキゾチックな表象のみならず、アメリカ国内においても流通していた表象をも用いていたことを明らかにした。例えば彼は、アメリカにおける先住民表象を太平洋表象に重ねることで、一般の読者には馴染みが薄いはずの話題に人種という同時代的問題を付与していたのである。そして三点目は、メルヴィルが描き出す太平洋の景色に、オリエントを支配しようと前進するアメリカの帝国主義的欲望が描かれていることを論じた。ここで重要なのは、そのような帝国主義的欲望が同時代の風景画あるいは風景譚の手法を通じて書かれていることであり、さらに、そのような欲望を批判的に描くために、メルヴィルがアメリカン・ルネサンス期の別の作家、すなわちエドガー・アラン・ポーから影響を受けていたことである。全ての研究を進める過程で、当初の研究目的であったメルヴィルの基礎研究(手紙や日記など)を進めるのみならず、彼が読んだ雑誌や書物などを探りその影響を確かめた。これらの研究成果は、3度の口頭発表と1本の英語論文執筆により発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
メルヴィルの太平洋表象が内包するゴシック的想像力について、わたしが「研究の目的」で当初記載していた通り手紙や日記、そして彼が読んでいた本や雑誌に関する基礎文献の読解ができた上に、そのゴシック性の一つの根源である人種性が単なる他者性のみならず、アメリカ国内で話題にのぼっていたアメリカ先住民の問題が関係していたことを示唆することができた。これらの研究成果は、論文執筆を1本に口頭発表を3回行うことで発表した。しかしメルヴィルの他者性として人種に焦点を当てる一方で、「研究の目的」にあった、メルヴィルと女性あるいは資本主義の問題を論じることはできなかったので、この点については引き続き取り組む必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度は、メルヴィルが描く太平洋表象とその他者性あるいはゴシック性を論じるために、メルヴィルに関する基礎研究にあたりながら、同時代の他作家との比較、あるいはアメリカ国内の人種問題がそのような表象に重ねられている点を強調して論じた。しかし、このテーマは多岐にわたる大きなテーマであるため、2015年度以降も引き続き積極的に論じてゆきたい。 新たな課題として、メルヴィルが描く太平洋表象が単に人種の問題を明らかにするのみならず、「アメリカ性」あるいは「白人性」といったアメリカの根源的なテーマとも連動していたことが浮かび上がった。この点についても、メルヴィルが北部アメリカを代表する名家の生まれであり、アメリカ史において活躍した英雄たちを輩出した一族の歴史を意識していたこととそれゆえの自意識、そしてアメリカの愛国主義的な運動であるヤング・アメリカ運動との関係も視野に入れてゆきたい。また、本来であれば2014年度に取り組む予定であった、メルヴィルと女性、あるいは労働者階級の問題も扱いたい。 メルヴィルの太平洋表象が明らかにする、これらのアメリカにおける中心と周辺が交錯する問題系を論じるために、平成27年度においては具体的に次のような計画を立てている。国際メルヴィル学会(2015年6月開催)での学会発表、そして9月以降に決定したカリフォルニア大学への交換留学などを通じて積極的に研究を進めていく予定である。
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Research Products
(4 results)