2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13J03020
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
勝谷 祐子 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員DC1
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Keywords | サン・ボネ・ル・シャトー / 壁画 / フランス / 国際ゴシック様式 / 修復保存 / ブルボン家 / 寄進 / 美術史 |
Research Abstract |
本研究はサン・ボネ・ル・シャトー参事会聖堂クリュプト壁画(以下、「サン・ボネ壁画」)の制作年代、画家の特定、作品プログラムの解釈を行うものである。本年度は、サン・ボネ壁画の修復保存状況を調査し、19世紀以降、四度に渡り行われた修復工事の際、いかなる技法により、どの程度の加筆が施されてきたのかを明らかにした。過去の文献資料における作品記述と写真、公文書類を精査するとともに、サン・ボネ壁画における4度目の修復工事(1996-8)を手掛けた修復家R. ブッカン氏の指導の下、修復技法についての知識習得とサン・ボネ壁画における細部の作品観察を行い、他の壁画における修復例との比較も用いながら、加筆箇所や保存の現状を詳細にし『エクフラシス』(中世ルネサンス研究会)にて論文を発表した。これにより、加筆とオリジナルの筆が明確に区別され、以後の研究において様式、図像分析を正確に行うことが可能となった。また「天使の奏楽」図像をもつ14、15世紀の壁画作品収集を続ける中で、サン・ボネ壁画の図像源泉と見倣される壁画の発見に至った。次いで、図像源となる壁画の描かれた教会に、アンヌ・ドーフィヌの夫、ブルボン家のルイIIが寄進を行っており、その死後にまでブルボン家との間に強いつながりがあることが確認された。アンヌ・ドーフィヌは、サン-ボネ壁画の銘文にその名が記されていないものの、本壁画制作に途中より加わった三人目の寄進者であると推測され、研究者がその寄進参画の可能性を検討していた人物である。ここにおいて成立するアンヌ・ドーフィヌ、図像源泉と見倣される壁画、サン・ボネ壁画三者の結びつきから、サン・ボネ壁画の注文、制作、工事中断、アンヌ・ドーフィヌの参加と再着手に至る経緯が高い確実性をもって説明されることになり、作品解釈、画家の同定、制作年代の限定といった問題に向かう不可欠な基盤が固められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
様式分析、図像分析を行う前提として必須となる壁画の修復保存状態についての調査を行い、論文としてまとめることができた。サン・ボネ壁画のみならず、比較材料となる壁画作品の写真撮影、文献資料、修復保存に関する公文書の収集を一通り終えることができた。また、サン・ボネ壁画の図像源泉の発見に至ったことで、寄進者を特定し、サン・ボネ壁画制作の経緯を高い確実性をもって説明することが可能となり、今後の研究の基盤が固められた。
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Strategy for Future Research Activity |
寄進者と図像源泉の特定、作品プログラムの解釈について、中世ルネサンス研究会(2014年7月)にて口頭発表を行った後、論文執筆を行う。また、2014年夏季には、「天使の奏楽」図像を天井部に描いた壁画5件の現地調査を行う。これまでの調査結果と合わせる形で完成される本基礎データをもとに14、15世紀のフランス壁画における「天使の奏楽」図像の発生と展開を分析し論文としてまとめる。2015年にはサン・ボネ作品と様式的に比較可能な作品類、とりわけ、パリとブルゴーニュの宮廷画家による作品群と照らし合わせながら、特に技法とデッサンについての比較分析を進め、サン・ボネ画家が修業を行った可能性のある工房の特定を図る。画家の修業時代から、サン・ボネ制作着手までの歴史の再構築を試み、成果を得次第、論文としてまとめる.
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Research Products
(1 results)