2013 Fiscal Year Annual Research Report
内在的価値論の再構築に基づく環境倫理学の新展開-「人間存在の二重性」による体系化
Project/Area Number |
13J03030
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高江 可奈子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 遺伝子操作 / 道徳的考慮 / 内在的価値 |
Research Abstract |
本研究の目的は、環境倫理学において推し進められてきた内在的価値論の新たな展開と可能性を探究することで、環境倫理学ならびに応用倫理学全体の学問的意義のあり方を示すことにある。本年度に実施した研究内容は、人為的介入に関連した問題を取り上げている環境倫理や生命倫理の文献を集中的に読み、「人為性」概念がどのような形で論じられてきているのかを考察した。環境倫理と生命倫理はそれぞれ異なる問題意識の下で発展してきており、別個の学問領域として考えられる傾向にあったため、まずは人為的介入や「人為性」概念を通して両者を包括的に捉える問題枠組みを新たに構築する必要があったのである。その結果、様々な技術的介入を背景にして生じる「道徳的考慮を巡る問題」に着目することで両者の学問領域がまとめられることがわかった。従来、道徳的考慮は無危害原則に則った「福利」や「権利」概念によって論じられてきた。しかし、生命に対する多様な技術的介入が可能となった今、無危害原則だけでは捉えきれない対象(胚や遺伝子操作された無痛動物など)を道徳的にどう位置づけるべきなのかが環境倫理、生命倫理双方において重要な争点の一つとなってきているのである。さらに、この新たな問題枠組みを構築するにあたって、「内在的価値」概念をどのように捉えるかが大きな役割を果たす可能性がある点を示唆するところまで達成した。 この研究成果は、本研究を進めるに際して大きく二つの意義を有している。第一に、技術的介入に焦点を当てることで環境倫理学と生命倫理学を統合できることを示せたのは、包括的な内在的価値論を再構築するための第一歩となった。第二に、環境倫理学内部では頓挫状態に終わっている「内在的価値」概念を改めて検討することの正当性を示す道筋を得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的達成には、①技術的介入を通した環境倫理と生命倫理の統合可能性、②内在的価値の再検討を試みる正当性、③内在的価値論の再構築によって環境倫理学の新たな展開が提示できる、の三つの点を示す必要がある。本年度の研究によって①と②の見通しを立てることができたことから、おおむね順調に進展していると評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は、文献を読み込むことで議論の体系化および問題の定式化の道筋を模索したため、口頭発表や論文といった形での研究成果をあまり提示しなかった。今後は、本年度の研究を通して明らかになった事柄を積極的に発表するとともに(すでに国際学会での発表を六月に控えている)、新たな問題枠組みにおける「内在的価値」概念の位置づけを検討し、内在的価値の詳細な概念分析を行っていく。
|
Research Products
(2 results)