2013 Fiscal Year Annual Research Report
寒冷地でのオサムシの色彩進化 : 昼行性へのニッチシフトと鳥による捕食の回避
Project/Area Number |
13J03158
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
奥崎 穣 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 特別研究員(PD)
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Keywords | 緯度 / 昼行性 / 生活史 / 鳥類 / 分光器 |
Research Abstract |
生物の色彩が進化する前提は、①明条件下での活動(昼行性)と②色覚を持つ生物との相互作用である。甲虫オサムシは、主に北半球の温帯から亜寒帯にかけて分布し、夜行性と言われている。多くの種は黒色や褐色の地味な色彩だが、高緯度では鮮やかな色彩の種が分布している。この色彩の緯度パターンは、一部のオサムシが高緯度でその色彩に何らかの淘汰を受けていることを示唆する。 そこで今年度は、北海道でオサムシの色彩と活動時刻および活動時期の関係(色彩進化の前提①)を調査した。その結果、色彩(赤、緑、茶、紫)を持つ種は、昼も夜も活動しており、夏に繁殖し、盛んに徘徊していた。一方、黒色の種は、夜間のみ活動しており、秋に繁殖し、盛んに徘徊していた。 オサムシは、草本や落葉といった障害物に覆われた林床や草原を徘徊する捕食者である。そのため、オサムシは視覚に依存しておらず、光がなくてもその行動には大きな影響はないと考えられる。一方、オサムシを捕食する脊椎動物(哺乳類、鳥類)は、色覚の発達程度は様々だが、視覚を使って餌を探す。従って、捕食者の視覚が機能しない夜は、昼よりもオサムシにとって安全な光環境と言える。そして、夏の夜は高緯度ほど短い。高緯度では、夏に繁殖するオサムシは、夜だけでなく、昼にも活動しなければならず、対捕食者形質として鮮やかな色彩が進化したのかもしれない。一方、秋に繁殖するオサムシは、昼と夜の長さが等しい時期に繁殖するため、夜だけでも十分な採餌と交尾ができるのかもしれない。また、夜は全ての色彩のオサムシが活動するのに対して、昼には黒色以外のオサムシが活動することから、黒色は昼間に不適応な表現型であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
鮮やかな色彩を持つ種が昼に活動することを示すのが、今年度の目標であり、それを達成することはできた。しかし調査開始当初は、それらの種がなぜ昼に活動するかという疑問に対する仮説を立てることはできていなかった。一方、サイドワークとして行った生活史調査から、色彩と繁殖期の関係を見いだしたことで、高緯度での短い夏の夜が昼行性化の原因という仮説を得ることができた。緯度による日長の変化は、地軸の傾きに起因するものである。本研究は、地球の地学的特性が、生物進化に影響を与えることを示す事例となりえるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、夏に繁殖するオサムシが、どこでも昼に活動するのか、それとも高緯度でのみニッチシフトにより昼に活動するのかを確かめるため、高緯度で明るい色彩になるマイマイカブリの活動時刻を、日本各地で調査する。 次に、昼に活動するオサムシが黒色以外の色彩を持つ原因を明らかにするために、異なる色彩のオサムシを野外区画内に放し、それぞれに対する鳥類と哺乳類からの捕食圧を評価する。この野外実験は、北海道大学の演習林内で行う。
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Research Products
(2 results)