2014 Fiscal Year Annual Research Report
寒冷地でのオサムシの色彩進化:昼行性へのニッチシフトと鳥による捕食の回避
Project/Area Number |
13J03158
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
奥崎 穣 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 体色進化 / 甲虫 / 分光測定 / 活動時刻 / 捕食者 / 捕食寄生者 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物の色は,明環境において視覚を介した生物間相互作用によって進化する.視覚で探索を行う捕食者がいる場合,餌となる動物の体色には捕食圧を減少させる機能が備わっていると考えられる.甲虫は多様な体色を進化させた昆虫分類群であるが,その捕食者および体色と捕食圧の関係は明らかではない.本研究では,一般に夜行性と言われるにもかかわらず多様な体色を持つ大型の徘徊性甲虫オサムシにおいて,北海道道央に分布する森林性の6種を対象として,体色(反射スペクトル),活動時刻,捕食者をそれぞれ分光測定,定時採集,野外実験から明らかにした. オサムシの体色は背面にのみ現れ,その反射率はメスよりもオスで高くなる傾向が見られた.いずれの種も昼夜ともに徘徊しており,その活動性はオスのほうが高かった.これらの結果は,オサムシの背面の体色が他の動物に見られることよって進化したことを示唆する.しかし,オサムシの捕食者は,視覚の発達した鳥類でなく,色覚の退化したタヌキであった.さらに,その捕食率は低く,オサムシの体色も影響しなかった.したがって,オサムシの体色の進化に脊椎動物捕食者が関与しているとは考えにくい. 一方,実験のために採集したオサムシの体内からは,しばしばヤドリバエの幼虫が見つかった.稀にヤドリバエの卵を体表に付着させた個体も採集された.このことはヤドリバエの成虫がオサムシに直接接触し,産卵していることを意味する.その際,ヤドリバエは視覚でオサムシを探索し,オサムシの体色はこの捕食寄生を回避する隠蔽色として進化した可能性がある.来年度は,ヤドリバエのオサムシへの寄生に注目し,体色と捕食寄生率の関係を野外実験から明らかにしていく.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
体色は見られる側の生物で進化する.これまで小動物の体色進化は,視覚の発達した鳥類の捕食圧で説明されてきた.一方,申請者は,鳥類の捕食対象でないにもかかわらず多様な体色を持つ昆虫が,捕食寄生性の昆虫に見られている可能性を示した.今後の研究によって,嗅覚を頼りに行動すると考えられがちな昆虫において視覚の重要性が示され,昆虫間の情報伝達方法において新たな視点が確立されることが期待される.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,オサムシとヤドリバエを定期的に採集,解剖し,それぞれの生活史を明らかにする.オサムシの体内から得られたヤドリバエ幼虫のDNAバーコーディングにより,ヤドリバエの宿主特異性を評価する.次に,ヤドリバエの寄生率が高い時期に,オサムシの体色とヤドリバエの寄生率の関係を野外実験から明らかにする.体色を塗料で変化させたオサムシを透明なトレイに入れ,ヤドリバエによる体表への産卵を観察する.本来の体色ではないオサムシはヤドリバエから見えやすく,産卵率が高まると予想される.可能であれば,ヤドリバエのオプシン遺伝子から視物質を再構成し,ヤドリバエの知覚できる色(視物質が吸収する光りの波長)を明らかにする.
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Research Products
(1 results)