2014 Fiscal Year Annual Research Report
殉教の位置づけから見た初期キリスト教会の内政・外交研究
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13J03207
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
大谷 哲 千葉大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | キリスト教 / ローマ帝国 / 殉教 / 裁判 / 司教 / パピルス / 迫害 / 棄教 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、初期キリスト教会における殉教者ならびにかれらに次ぐ存在とみなされた告白者に関する位置づけを検証することを通じて、ローマ帝政期における初期教会の内政と外交を解明しようとするものである。今年度、本研究は昨年度からの研究の進展を受け、ローマ皇帝デキウス(位249-251)が行った対キリスト教徒政策がどのように施行されたかを検証した。彼が250年に発布した、全帝国市民に対し、帝国の安寧を祈り神々に供儀をささげよとの布告とそれに対する各属州の行政現場での実施、ならびにこの布告に対するキリスト教徒の反応が考察の対象である。主な検証の対象となったのは、供儀執行者に発行された証明書パピルスである。本研究はこのパピルス史料全46葉を近代の校訂に基づき全訳し、そこから読み取れる供儀ならびに証明書執行の手続きを考察した。複数のパピルスには同一家族内の個人名がまとめて記載されており、そこから、証明書パピルスは、個々人が携帯するのではなく、一家に一枚保管されるために発行されたと考えられる。このことから、デキウスの対キリスト教徒政策とは、個々のキリスト教徒を探索し炙り出す踏絵のようなものではなかったことが浮かび上がる。こうした皇帝政府の方針は、当時の状況を証言する教会史史料、殉教伝史料とも整合する。この研究は第64回日本西洋史学会大会(立教大学、2014年6月)にてポスター報告され、大会参加者の投票により優秀ポスター賞に選ばれた。この受賞を記念して2014年11月に立教大学にて開催された公開講演会で同研究に関する講演を行い、研究成果の社会還元を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究課題を達成していくことと同時に、学会報告で成果を報告し、研究内容の妥当性を確認しながら作業することができたが、伝統ある日本西洋史学会大会にて報告に対し受賞できたことは、研究が計画以上に進展していたことを示すと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は古代ローマ帝国におけるキリスト教会の内政・外交を殉教をキーワードに探ろうとするものである。これまでの研究の進展を受け、当初の計画に加え、ローマ帝国がキリスト教化していくと言われる古代末期、特にコンスタンティヌス朝期以降やポスト・ローマ期なども視野に入れることが可能となることが明らかになってきた。国家によるキリスト教徒の信仰問題を対象とした刑事裁判が存在しなくなる時代、すなわち殉教が発生し得ない時代になっても、殉教者という象徴的な存在は、キリスト教会において内外との交渉を行う際に有効であった。こうした点を念頭におき、今後研究を進めていきたい。
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Research Products
(4 results)