2013 Fiscal Year Annual Research Report
‘共感’の心的デザインの再構築ー認知・行動・神経基盤の解明
Project/Area Number |
13J03249
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
村田 藍子 北海道大学, 大学院文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 共感 / 認知・神経メカニズム / ボトムアップ-トップダウン |
Research Abstract |
共感は、社会科学では援助行動や社会保障制度への合意など個人の福利を超えた意志決定の基盤として注目を集めており、また自閉症スペクトラムのような他者の心的状態の推測が困難な症例を扱う臨床場面においても本質的に重要であるため、さまざまな領域で活発に研究が行われて来た。その一方で、臨床医学、社会神経科学、社会・発達心理学を含む多様な領域においてこれまでほぼ独立に展開されており、統一的なパースペクティヴを欠いているのが現状である。近年の社会神経科学領域における「自他の間に"共通の痛みの回路(shared pain circuits)"が存在する」という知見(Singer et al., 2004, 2006 ; Decety & Lamm, 2009)や、ラットを始めとする哺乳類の共感現象を報告する研究(Preston & de Waal., 2002)は、"共感"と呼ばれる複雑な現象群の身体的・生理的基盤・進化的基盤を明らかにするという意味で極めて重要である。しかし、こうした進化的視点あるいは社会神経科学的アプローチは、島(insula)や帯状皮質(cingulate cortex)などの情動的回路(pain matrix)を中心とする自動的(ボトムアップ的)側面を重視しがちであり、"共感"を思いやりや利他性、心の理論といった人間特有の高次の認知過程として捉える傾向のある社会科学の着想とは距離があった。 そこで、本研では、他者の苦痛への共感について、情動的/自動的なボトムアップの過程と認知的/制御的なトップダウンの過程の交絡関係を認知(情報入力)→神経科学(情報処理メカニズム)→生理・行動(出力)の多方面から明らかにすることを目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
情動的な共感反応を客観指標である自律神経系の生理反応を用いて測定し、高次の認知処理との関連を検証する実験研究を行い、研究成果を2つの国内学会において発表した。なお、発表は高い評価を得て、学会発表賞を受賞している。加えて、「意思決定と情動」という朝倉書店から出版予定の本の章、「集団行動と情動」を共著で執筆し、編集社に投稿中である。また、現在、従来の共感研究において例が少ない、相互の反応をリアルタイムで参照できるインタラクティブな状況における情動共有過程を検討したプロジェクトを進めており、総合的に見て、順調に研究が進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
情動共感と認知処理過程の関わりを検討した論文の論文執筆を行う。加えて、現在進めているリアルタイムの相互作用が可能な状況下における情動共有過程を検討したプロジェクトについて、追加実験実施及び解析、論文執筆を進める。今後、情動共感と認知処理過程の関わりを神経メカニズムのレベルで探るために、脳画像撮像やデータ解析に係る技術習得を行い、fMRIを用いた実験の実施を目指す。
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Research Products
(2 results)