2014 Fiscal Year Annual Research Report
‘共感’の心的デザインの再構築ー認知・行動・神経基盤の解明
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13J03249
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
村田 藍子 北海道大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 共感 / 情動伝染 / 高次認知 / 生理指標 |
Outline of Annual Research Achievements |
映画の登場人物が爪を剥がされるシーンを観ると、その瞬間、自分まで痛みを感じたような気分になるだろう。このように非意識的・自動的に他者と情動状態を共有する現象は「情動伝染」と呼ばれており、認知神経科学において、他者の苦痛を観察するだけで、自身が直接苦痛を受けたときと同様の神経回路が活性化することが例証されて以降、注目を集めている。 従来のヒトの情動共有を扱った研究の多くは、他者の情動反応を刺激とし、観察者の反応を見るという一方向的なアプローチが主流であり、個人間の相互作用はほとんど考慮されてこなかった。しかし、現実場面では、他者から影響を受けたことにより生じる自身の情動反応もまた他者(相手ないしは別の他者)に影響を与えるというダイナミクスも想定されうる。そこで、本研究では個人間でどのように情動が共有されるのかを探るために、互いの状態が観察できる状況を設定し、双方向的な社会的影響を検討する実験を実施した。具体的には、二者が対面で同時に痛み刺激を与えられる場面における自律神経系の生理反応の同期を調べた。結果、対面した二者の生理反応は、対面していない二者の生理反応に比べ同期度が高く、双方向的な情動共有が自律神経反応のレベルで生じることが明らかになった。さらに、情動共有が生じるほど主観的な痛みが増幅することが示され、情動共有によって互いの苦痛に対する感受性にも変化がもたらされることが示唆された。情動共有が双方向的に働くことにより、結果として各個人の感受性を変容させることを示唆するこの知見は、従来の一方向的なアプローチでは捉えきれなかった興味深いものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題の主題である苦痛の共感について、 相互作用場面における情動共有過程を検討した実験研究を実施した。これはこれまでにあまり例をみない斬新的な研究である。またその成果を、国内外の諸学会で発表するだけでなく、関連研究者と共に学会シンポジウムを企画するなど、精力的に研究成果を発信している。論文執筆も順調に進んでおり、和文論文1本が公刊されていることに加え、さらに和文1本、英文1本計2本が現在投稿中である。高い生産性を維持しており、順調に進展していると言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
相互作用場面における情動共有過程を検討した研究の成果について、論文執筆・投稿を行う。また、二者が対面で同時に痛み刺激を与えられる場面において、二者の感受性が異なる場合に、自律神経系の生理反応の連動の程度が変化するかを検討するための実験を実施する。合わせて、これまでの研究成果を博士論文にまとめる。
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Research Products
(4 results)