Outline of Annual Research Achievements |
本年度は, 股関節周囲筋の柔軟性および筋力比が, スプリント動作時の大腿二頭筋長に及ぼす影響を検討することを目的とし, 研究を行った. 男子陸上競技短距離走選手12名を対象とし, 筋骨格モデリングソフトを用いて, スプリント時の骨盤前傾角度, 股関節屈曲角度, 膝関節屈曲角度, および大腿二頭筋の筋長を算出し, 遊脚期後半の大腿二頭筋長とSLR test, Thomas test, 股関節伸展/屈曲筋力比, および膝関節屈曲/伸展筋力比との関連を検討した. また, 重回帰分析を行い, 各測定項目が大腿二頭筋長と回帰関係にあるか検討した. 遊脚期後半の膝関節最大伸展時における大腿二頭筋長は, 股関節伸展/屈曲筋力比と有意な負の相関を示した. また, 重回帰分析の結果, 股関節伸展/屈曲筋力比とハムストリングス柔軟性の低下, 対側股関節タイトネスの増加が, 遊脚期後半の膝関節最大伸展時におけるハムストリングス伸張に対して有意に回帰した. 本研究結果より, 接地直前におけるハムストリングス長に股関節伸展筋力, ハムストリングス柔軟性, 対側股関節前面タイトネスが影響している可能性が示唆された. これは, ハムストリングス肉離れに複数の危険因子が複合して関与している可能性を示唆するものであり, 受傷予防のためのコンディショニングおよび再発予防リハビリテーションにおいて, 複数の危険因子に対し包括的な対処を要することが示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は, 予定していた実験を完了し, その内容については国内学会において発表を行った. また, 国際学術雑誌へ投稿し, 現在査読中である. 従って, 研究の達成度としては, 順調に進展していると思われる.
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Strategy for Future Research Activity |
ハムストリングス肉離れは, 疾走時に最も多く発生することから, これまで疾走時のハムストリングス肉離れの受傷メカニズム解明を目的として研究を行ってきた. 一方で, 球技のような対人動作を伴うスポーツ競技では, 動作や運動方向が必ずしも決定しておらず, 選手の意思に反して動作が乱れた際に受傷する例も報告されている. このような場面において, ハムストリングスを含めた股関節周囲筋は協調して張力を発揮し, 瞬時の動作変化に対応することが求められる. しかし, 受傷時には非予測的な動作の乱れに起因した股関節周囲筋の筋活動に乱れが生じることが, ハムストリングスに対する負荷増大に関係している可能性が考えられる. そこで今後の研究では, 股関節周囲筋の神経筋制御動態に機械的外乱が及ぼす影響に関して基礎的な検討を行うことを目的とする.
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