2014 Fiscal Year Annual Research Report
有機強誘電体からの高効率テラヘルツ波発生による強誘電ドメインの可視化とその光制御
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13J03372
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
五月女 真人 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | テラヘルツ / 強誘電体 / 有機分子性結晶 / 非線形光学 / フェムト秒レーザー / 強誘電ドメイン / ラマン散乱 / フォノン |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、強誘電性を有する有機分子性結晶の物質開発が大きく進展し、室温において無機強誘電体に匹敵する分極値を有する物質群が多数開発され、理論・実験両面から多くの研究が行われている。有機分子性結晶は、無機物に比べ軽量・フレキシブル・環境適合性の点で優れており、有機分子性結晶に特徴的な新しい物性や機能を開拓することは重要な研究テーマである。有機分子性結晶における強誘電特性や光学特性を理解すること、さらに進んで外場によってドメインを制御するためには、従来の電気分極の電場依存性や光学応答などの平均的な物理量を測定するだけでは不十分である。すなわち、有機分子性結晶に特徴的な新機能を創成するためには、強誘電ドメインを実空間で観察し、そのドメイン構造が電場などの外場によって変化するダイナミクスを明らかにすることが必要不可欠である。しかしながら、有機分子性強誘電体の最も基礎的な強誘電ドメイン構造や電場下でのダイナミクスですら明らかになっていなかった。 本研究では、フェムト秒レーザー照射によるテラヘルツ電磁波発生を応用した汎用性の高い新たな強誘電ドメイン可視化手法を開発し、有機分子性強誘電体の強誘電ドメイン構造や電場下や光照射下における強誘電ドメイン動力学を明らかにすることを目的として実験を行った。平成26年度中には、有機分子性強誘電体クロコン酸から高効率なテラヘルツ電磁波発生を見出し、それを用いて電場下を含めて強誘電ドメイン構造を可視化した成果がApplied Physics Lettersで出版された。さらに、このテラヘルツ帯の光学異方性を利用することにより、強誘電ドメイン構造を三次元的に可視化する手法を開発した。これにより、水素結合型有機強誘電体[D-55DMBP][Dia]結晶の表面及び内部のドメイン構造を可視化することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、申請者らが見出したフェムト秒レーザー照射による有機強誘電体からのテラヘルツ電磁発生現象を利用することにより、新たな三次元分解能を有する強誘電ドメイン可視化手法の開発に成功した。具体的には、テラヘルツ帯から可視域に及ぶ基礎光学スペクトルを測定し、その光学異方性を利用することで、強誘電ドメインの新しい3次元可視化技術の開発に成功した。この技術を利用して、室温で強誘電性を示す[D-55DMBP][Dia]結晶の表面及び内部のドメイン構造が異なること、さらに電場下におけるドメイン壁のダイナミクスの可視化に成功した。 また、当初研究目的を上回る成果として、フェムト秒レーザー照射に伴うテラヘルツ電磁波発生のメカニズムとして従来報告されてきた光整流効果だけでなく、瞬間誘導ラマン散乱過程を介したプロセスがいくつかの物質で顕在化することがあることを見出したことが挙げられる。前者が広帯域のテラヘルツ電磁波発生が観測されるのに対し、後者のメカニズムはフォノンに共鳴した狭帯域のテラヘルツ電磁波発生が観測される。第一に、無機非線形光学結晶α-TeO2において、瞬間誘導ラマン散乱過程によるコヒーレントフォノン生成にともなう狭帯域のテラヘルツ電磁波発生を見出し、Physical Review A誌で発表した。この研究の過程で、テラヘルツ電磁波の発生、伝播、検出のそれぞれの過程を考慮し、実験で観測されるテラヘルツ電磁波の波形をシミュレーションする技術を確立した。シミュレーション技術の確立により、様々な物質におけるテラヘルツ電磁波発生のメカニズムを詳細に議論することが可能となった。この成果に基づき、有機分子性強誘電体におけるテラヘルツ電磁波発生の探索をさらに進め、複数の物質において狭帯域のテラヘルツ電磁波発生が顕在化することを見出した。以上から、期待以上の研究の進展があったと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、有機強誘電体におけるフェムト秒レーザー照射によるテラヘルツ電磁波発生を活用することで、強誘電分極のみならず、その発現に深く関連する物質内の素励起の超高速ダイナミクスをプローブすることを目指す。 申請者らのこれまでの研究ですでに、①有機強誘電体にフェムト秒レーザーパルスを照射することで、高効率にテラヘルツ波が発生すること、②発生したテラヘルツ波を利用して強誘電ドメインをベクトルとして可視化できることをすでに明らかにした。また、ドメインの時空間ダイナミクス解明のため、本可視化手法を3次元へ発展させることに成功した。さらに、レーザー光を外場として用いることで、ドメイン動力学の解明、ならびにドメインの超高速光制御の実現を目指し実験を行ってきた。今後の研究では、テラヘルツ波発生によるイメージング法とフェムト秒パルスによる励起を組み合わせた実験により、有機分子性強誘電体における強誘電ドメイン構造の超高速ダイナミクスを明らかにする。 また、本年度は、分子間振動やプロトンの運動が強誘電性に深く関連する有機分子性強誘電体を対象に、強誘電性にかかわる素励起の超高速ダイナミクスを観測する実験を行う。申請者のこれまでの研究で、テラヘルツ電磁波発生を利用すると、強誘電性発現に関わる水素結合や分子振動をプローブできることを見出している。超高速レーザーにより物質を励起し、テラヘルツ電磁波発生により振動状態の変化をプローブすることにより、光励起後の水素結合や分子振動のダイナミクスを明らかにすることを目指す。
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Research Products
(5 results)