2014 Fiscal Year Annual Research Report
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13J03591
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
塩原 佳典 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 名望家 / 地域教育史 / 幕末維新期 / 松本藩 / 筑摩県 / 自由民権運動 / 近代学校 / 医療環境史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、近世から近代までをひと貫きに見通す地域教育史像の構築を目指すものである。 2014年度は第一に、博士学位論文(京都大学大学院教育学研究科、2012年度提出)で展開した議論の精度を上げ、単著を刊行した。『名望家と<開化>の時代-地域秩序の再編と学校教育』(京都大学学術出版会、2014年4月)である。本書では、幕末維新の変革期に、地方の名望家たちが近代学校の設立など、地域の教育をみずから担っていった様態を、多様な「開化」事業と関連づけて考察した。みずから主体となって「開化」に取り組んでいた名望家たちの「主体性」を浮き彫りにする。それを通して、現在を生きる私たち自身が、学校を取り巻く地域の環境を築いていくうえで、重要な手がかりを示唆しうる姿勢であると評価した。 第二に、地域社会に生きた人びとの生活様式にさらに迫るべく、近代病院・医療の定着過程に注目している。衛生委員や病院世話掛を務めた人びとは、学校教育の場を利用することで、近代的な衛生思想の普及に努めた。そうした衛生活動は、病院設立に発展し、地域の「福利」を向上させた。しかし、その病院設立運動は、郡を単位としていたがゆえに、病院をめぐる郡同士の相克を引き起こした。かかる過程を実証的することで、地域住民の切実な「生存」欲求が、結果的に公立病院の不在を招いたことを指摘した。このテーマは、現在進行中の研究課題であり、2015年度には論文にまとめ、その成果を関連学会に問うていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、単著を刊行したことが大きな成果である。一方で、新たな史料群の発掘に重点的に取り組んだ。これにより、本研究課題が最終年度を迎えるにあたり、研究成果を挙げるための基礎的な調査も進んでいる。よって、本研究課題の遂行は現在までのところ、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度となる2015年度は、新たに見いだした史料を解読し、学術論文としてまとめる。また、2014年度に開始した長野県大町市平林家文書の整理・目録作成を完了する。平林家は、当該地域における近世以来の名望家的存在として、地域の教育・医療分野の近代化を担った。本史料群の整理作業を継続することで、地域の医療環境史や教育史、そして生活文化史に共通する議論の土台を築く研究成果を挙げていきたい。
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Research Products
(1 results)