2014 Fiscal Year Annual Research Report
前近代東南アジアにおける交易ネットワークと権力構造とその展開
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13J04116
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
松浦 史明 上智大学, 総合グローバル学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 東南アジア史 / 前近代 / 刻文史料 / 王権 / 交易史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、前近代東南アジアにおける交易ネットワークの発達と統治システムの変容を動態的に描き出すことで、東南アジア史に新たな時期区分を導入し、国家のあり方と変遷、およびその中で交易の占める位置とその展開を明らかにすることを目的としている。さらに、交易を単なるモノの交換行為としてだけでなく、宗教的紐帯を基礎とした権威付けの装置や地方化の一形態として捉えなおすことで、各地域の中心―周縁関係を含む統治システムとその変容を明らかにすることを目指している。 第2年度目である本年度では、これまで行ってきた資料状況の把握、分析手法確立のため考古学など周辺諸科学の方法論の習得を継続しつつ、特にチャンパーやタイなどこれまで理解が不十分であった諸資料の読み込みを進めてきた。同時に、最終年度に向けた研究の全体的な方向づけに取り組み、東南アジアの権力構造を解き明かす主要テーマの一つとして個人崇拝の問題に関する論文を発表した。 また、カンボジア南部の地方遺跡を中心に踏査すると同時に、各種博物館・資料館などにおいてアーカイブ調査を実施した。特にカンボジア南部からメコンデルタにかけての地域はアンコールとチャンパーの勢力争いが何世紀にもわたり行われて来た土地であり、アンコール以前に存在した国家である扶南とのつながりなど、アンコールの版図内においても特殊な地勢で、各地に点在する小丘に拠った土豪勢力の痕跡を実見することができたとともに、それら諸勢力がアンコール時代を通じてプノン・バヤンなどの大きな地方拠点に糾合されていった点について理解を深めることができた。これらの調査で得られた知見をもとにした成果発表を翌年度に予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度において、最終年度に向けてこれまでの全体的な取り組みと進行状況を再確認しつつ、今後の課題と作業予定を確定することができた。 本年度における成果発表として、各種のクローズドな研究会・勉強会で碑文や漢籍、フランス語文献の講読をしたほか、東南アジア学会関東例会で「アンコールの彫像にみる人と神――刻文史料の検討から」という題で報告を行なった。同報告では、碑文史料にみられる彫像の造像事例を検討し、10世紀後半以降の人物像の造立と個人崇拝の進展を明らかにするとともに、地方政治勢力の台頭を王権強化が表裏一体のものとして展開していた点を指摘した。この報告内容をもとに『佛教藝術』337号に論文を投稿した。 これらの研究成果によって、本研究全体の根幹となるテーマである統治システムとその変容に関する議論の土台ができたと考えており、今後本研究のもう一つの柱である交易ネットワーク論を深化させることで、研究目的の完遂が見込まれる。 以上の理由から、最終年度における成果発表に向けて着実に前進していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、史料状況や論点の整理といった基礎的な作業はおおむね完了し、議論の土台はほぼ構築されたと考えている。今後は、最終年度における成果発表に向けての作業を本格化させ、単行本の出版に向けた草稿の執筆に取り掛かる。 内容としては前半でアンコールの王権および中心―周縁関係について言及し、後半で東南アジア他地域の歴史との接続を試みる予定である。既に内容の一部分にあたる論考を発表済みであり、今後もいくつかの口頭発表・論文投稿を予定している。 海外調査や資史料の整理も継続するが、補足的なものにとどめ、成果発表のための作業に精力を傾注したい。
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Research Products
(3 results)