2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13J04159
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中村 有花 九州大学, 理学研究院, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 多成分溶媒系 / 並進拡散係数 / 特異摂動 / Stokes-Einstein則 / 溶媒和構造 |
Research Abstract |
溶質周りの溶媒粒子の密度分布が溶質の拡散係数に与える影響を理論的に明らかにするため、今年度は研究計画に従い2つの取り組みを行い、それぞれについて大きな成果を得た。 1つ目は、並進拡散係数の計算方法の改良である。これまでに定式化していた理論は、溶媒の密度分布の効果について定性的な議論はできたが、過大評価をしていた。そこで、定式化で用いる摂動展開を見直し、高次の項を考慮することで理論の改良を行った。その結果、過大評価による拡散係数の異常な振る舞いを回避できた。密度分布の効果の定量的な議論につながる、有意義な成果である。また、理論の改良に加えて、定式化した理論の精度を評価するため、他の精度の高い理論との比較を行った。それぞれの理論で計算した拡散係数を比較したところ、溶質が溶媒に比べて大きくなるにつれよく一致し、定式化した理論の精度の高さを明らかにすることができた。これは、定式化した理論が、大きい溶質を扱うことのできる有効な理論であることを示す重要な結果である。 2つ目は、改良した理論の2成分溶媒系への応用である。大きさの異なる2種類の剛体球からなる2成分溶媒中を大きな溶質が拡散するときの拡散係数を計算し、溶媒の密度分布の効果を数値的に評価した。計算の結果、拡散係数は流体力学のStokes-Einstein (SE)則から大きくずれることを発見した。SE則は溶媒の密度分布の効果を考慮していないことから、SE則からのずれは分布の効果と言える。さらに、SE則からのずれは溶質表面の溶媒の密度と強い相関があることを明らかにした。これまでに、2成分溶媒の密度分布がSE則からの大きなずれを引き起こすことは指摘されていない。多成分溶媒中での拡散現象の理解につながる重要な成果と言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画の通り、理論の改良および、その理論を用いた2成分溶媒系の並進拡散係数の計算を行い、それぞれについて成果を得た。さらに、他の理論との比較によって、定式化した理論を評価したことは、当初の研究計画にはないものであったが、理論の正しさの検証につながる大きな進展であった。
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Strategy for Future Research Activity |
定式化した理論を用いて、剛体球以外の粒子間相互作用を持つ系の並進拡散係数を計算し、並進拡散係数と溶媒の密度分布の関係を明らかにする。 また、並進拡散係数の定式化のときと同様に、摂動展開を用いて回転拡散係数の定式化を行う。さらに、その理論を剛体球系に応用し、溶質の回転に対する溶媒の密度分布の効果を明らかにする。
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Research Products
(9 results)