2014 Fiscal Year Annual Research Report
変動環境下でのシステム安定化機構:社会性昆虫における順位行動ネットワーク
Project/Area Number |
13J04279
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
下地 博之 北海道大学, 地球環境科学研究院, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 繁殖分業 / 順位行動 / 女王フェロモン / ドーパミン / 生理的異質性 |
Outline of Annual Research Achievements |
アリやミツバチなどのハチ目昆虫は真社会性昆虫と呼ばれ、女王が繁殖を行いワーカーが繁殖以外の仕事、例えば採餌や幼虫の世話、巣のメンテナンスを行う分業体制のもと、調和のとれた社会を形成している。しかしながら、多くの種でワーカーも交尾はできないが単為生殖によって雄になる卵を産むことができるため、繁殖をめぐる潜在的な利害対立が存在すると考えられている。このような状況下で利害対立がどのように解消され分業体制が維持されているのかを理解することは進化生物学上の重要な課題の一つである。 沖縄本島に生息するトゲオオハリアリは、全ての個体が卵巣を保持しており、社会の状況、例えば女王不在コロニーや、女王存在下であってもコロニーサイズの増加(ワーカー数の増加)などの要因によってワーカー間で繁殖権をめぐる順位行動が頻繁に行われ、高順位個体が産卵を行うことが知られている。従って女王の存在情報と順位行動の両方がワーカー繁殖を制御する事が示唆される。本研究では、①行動観察と②脳内アミン濃度の測定・合成経路遺伝子の発現解析によってワーカー繁殖制御の至近的な要因を調べた。 ①行動観察とネットワーク解析:一部の高順位ワーカーがハブ個体となり多くのワーカーに対して順位行動を行うことがわかった。順位行動と労働時間はトレードオフの関係にあり、多くのワーカーが順位行動を行うとコロニー全体でコストを生じると考えられているため、少数の個体による順位行動はコロニー全体に係るコストを抑え利益を高められる事が示唆される。 ②高順位ワーカーと低順位ワーカーの間で脳内ドーパミン濃度が前者の方が高い事が示された。また、女王から隔離されたワーカーで脳内ドーパミン濃度とドーパミン合成係る酵素遺伝子の発現レベルがどちらも上昇する事が示された。これらの結果から、脳内ドーパミンが繁殖分業維持における重要な生理因子の一つだと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①に関しては論文が受理されており、②に関しては現在投稿中である。 また、ドーパミン関連についての共同研究で関わった論文が受理されている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今回の発見により順位行動と女王存在情報がワーカーの脳内ドーパミンレベルを変化させる事がわかった。今後の課題としては、これら二つの異なる情報(前者は攻撃行動、後者は化学物質による刺激の伝達)がワーカーの脳内ドーパミン調節へ与える影響を分子レベルで調べるために、候補遺伝子の数を増やして発現解析を行う必要があると考えられる。
|
Research Products
(6 results)