2013 Fiscal Year Annual Research Report
米国における教員志望の「断念構造」およびその支援政策の効果と限界に関する研究
Project/Area Number |
13J04444
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
可児 みづき 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 教員養成 / 新任教員 / induction(入職) / 教師の学び / residency(学校を基盤とした研修) / 初任者研修 / 教員制度 / 教育行政 |
Research Abstract |
本年度は第一に、教員志望の継続・断念に関する「教員の入職過程」を捉える視角を吟味するため、1970年代以降に活発化した米国の「induction」研究の動向に着目し、inductionの概念規定・設定課題・研究手法の検討・整理を行った。なかでも「教師の学び」を用いてinductionを分析・構想する手法について評価を行った。教授についての学習は社会関係・文脈の中で出現する過程であるという知見から、従来のように新任教員の認識のみではなく、彼らを取り巻く関係性・資源の構成が重要な研究対象となっている。しかし、この徹底は不十分であるため、実践面で新任教員の変容のみを強調しがちであり、これを乗り越える実践的・理論的検討が課題として残っていることが明らかになった。 第二に、inductionの具体的制度形態として、採用前・後に設けられた「residency(学校を基盤とする研修)」の現代的実践・理論展開の解明を試みた。residencyの実践・理論研究のレビューと複数事例の分析をもとに、学習支援に対して実践者・研究者が自覚的にまたは無自覚的に構成している発想・理念を抽出し考察した。その結果として、まずresidencyを空間として捉える視点が確認された。residencyにおいて、知識は教員養成の問題に対して革新的で雑種的な解決方法を開発することを目的に集められる。この空間創設を志望者の学習機会拡大に結びつけ、知識の相互作用のなかに志望者を位置づけることを重視していた。次にオハイオ州の事例から浮かび上がったのは、新任教員とメンター教員の関係性を生成・調整する政策である。次元の異なる制度要素を組み合わせ、その調整上に学習の出現を企図する点に同政策の特質が見出される。シカゴ大学等の事例からは、教授実践に組み込まれる知識の識別と再結合を行い、卒後支援までを含めた長期的なカリキュラムを構成していたことが判明した。さらにresidencyと展開地域が重複するTeach for Americaの養成理念・手法をresidencyと対比し、今後の教員養成を論ずる上での貴重な手がかりを得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
米国の研究動向の整理・吟味、方法論の検討を行う上で必要な資料収集は概ね終えている。具体的事例として、州内二学区を対象として検討する予定にしていたが、連絡調整の難航から、一学区での検討にとどまった。しかし、大学における教員養成課程の実地調査については、次年度に予定していたものを本年度に繰り上げて実施することができた。本年度の成果のとりまとめと発表については、学術論文一本、単術誌寄稿論文一本を執筆したほか、学会発表を一回行うことができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、inductionを教員引き止めの観点から実証的に検討してきた米国の研究成果をもとに・効果ある条件と対置される諸条件と教員引き止めの意義を論じる視角を抽出し、また既に検討した「入職過程」に関わる視角を用いながら、志望の「断念構造」の枠組みを捉えることを試みる。具体的対象である事例検討については、プログラムの枠組み・構成を資料と聞き取り調査内容から解析してきたが、改めて志望者の見方を組み入れた構造把握が必要である。関係者との連絡調整のもと、可能な限り志望者への聞き取り調査を実施する。残り一つの学区調査においても、この点を考慮して場所確定を行う。
|
Research Products
(3 results)