2014 Fiscal Year Annual Research Report
協奏レドックス触媒で切り拓く新しい精密ラジカル重合
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13J04643
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤村 幸次郎 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | リビングラジカル重合 / 協奏触媒 / フェロセン / 鉄 / レドックス / 高分子担持触媒 / サステイナブルケミストリー / 触媒除去 |
Outline of Annual Research Achievements |
フェロセン (FeCp2) はレドックス活性を示す代表的な金属錯体であるが、金属レドックスに基づく「金属触媒リビングラジカル重合」(Mt-LRP) の主触媒としては機能しない。しかし、本研究員は、ルテニウム (Ru) や鉄 (Fe) を主触媒とするLRPにおいて、FeCp2やその誘導体が重合を促進する助触媒として機能する「協奏レドックス触媒系」を見出し、Ru主触媒量の高度低減や、高活性オール鉄触媒システムを実現した。しかし、本触媒系に用いるRu主触媒およびフェロセン助触媒は、重合溶液からの除去が困難で、生成ポリマー中に金属が残ってしまう問題があった。 一方、フェロセンは置換基設計が容易で、誘導体が多く存在するために、フェロセン助触媒に機能を付与できる。そこで、オレフィン部位を有するフェロセン誘導体 (ビニルフェロセン: VFc) に着目し、高分子型フェロセンを設計することで高活性と触媒除去の両立を目指した。具体的には、ビニルフェロセンと、主触媒を担持するためのホスフィンを有するスチレン型モノマー (SDP)、さらに高分子に両親媒性と感温性を付与するためにPEG鎖を有するメタクリレート (PEGMA) をランダム共重合することにより、一分子鎖中にフェロセン、ホスフィン配位子、PEGを有するランダム共重合体 (PPh3-Fc-PEG) を合成した。この高分子のホスフィンに主触媒となるルテニウムを配位させると、二金属担持型両親媒性ポリマー触媒 (Ru-Fc-PEG) となる。 Ru-Fc-PEGを用い、メタクリル酸メチルのリビングラジカル重合を試みたところ、重合は速やかに進行し、得られたポリマーの分子量はよく制御されていた。さらに、重合後の溶液を水によって洗浄することで、RuとFeを、それぞれ97.9% (Ru)、98.5% (Fe) と、ほぼ定量的に除去できることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に要約されている通り、当初の計画以上に研究が進展していると判断できる。すなわち、これまでに得られた、ルテニウム錯体ーフェロセン誘導体の組み合わせからなる「協奏レドックス触媒系」や、その展開である、重合制御能と活性に優れたデカメチルフェロセンー臭化鉄型の「全鉄系触媒」などの研究によって得られた知見を元に、高分子に担持した新しいフェロセン系触媒を開発するという成果を得た。 この高分子担持型フェロセン系触媒には、温度に応答して溶解性を変化させる機能を付与しており(温度応答性)、本ポリマー担持触媒を80℃以上の高温下有機溶媒中で、リビングラジカル重合の触媒に用いた後に、反応溶液に水を加えて、室温以下に冷却すると、簡便に触媒を除去することが出来る。すでに、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)によって、この高分子担持型触媒を用いるとほぼ定量的に金属触媒を除去できることが確認されている。 金属触媒リビングラジカル重合法(Mt-LRP)に対しては、触媒として用いるルテニウム(Ru)や鉄(Fe)といった遷移金属が生成ポリマー中に残ってしまう(触媒残渣)という深刻な問題があったということを踏まえると、高分子担持型触媒の開発によって簡便かつ効率的に金属触媒の除去を達成できるという本研究成果は、本重合の工業的応用の観点から極めて意義深いものと考えられる。 また、本研究成果は、すでに国内外の学会でも発表し、高い評価を受けている他、国際的学術誌に原著論文として発表される予定であり、学術的にも重要度が高い。 以上のような点から、本研究課題の達成度に関して、「当初の計画以上に進展している」と評価する次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果により、フェロセンの置換基を設計することで、高機能触媒系の構築が可能であることが実証された。そこで、今後は種々の機能基が導入されたフェロセン誘導体を新たなフェロセン助触媒として用い、従来の触媒系の活性をはるかに凌ぐ高活性触媒系の構築に挑む。 例えば、フェロセンのシクロペンタジエニル環にジメチルアミノ基(-NMe2)が導入された、N,N-ジメチルアミノメチルフェロセン(以下、アミノフェロセンとする)に期待している。その理由は、過去の金属触媒リビングラジカル重合に関する研究において、すでに重合の加速効果を与えることが分かっているアミン助触媒と、本研究員が独自に開発したフェロセン助触媒を組み合わせた、高活性助触媒となりうるためである。また、アミノフェロセンを酸処理すると、ジメチルアミノ基がイオン化されることで有機溶媒に不溶となるため、簡便に触媒を除去できる可能性もあり、持続可能触媒の観点からも興味深い。 以上の通り、種々のフェロセン誘導体の設計によって、高活性触媒系の構築を実現することができた場合には、その触媒系を用いて、一分子ラジカル付加反応(Kharasch付加反応)の検討を行う。Kharasch付加反応とは、金属触媒リビングラジカル重合のモデルとなった有機反応であり、炭素ー炭素結合生成反応として有効でありながらも、オリゴマー化等の副反応を抑制できないために、工業的応用例は殆ど無かった。そこで、本研究によって開発されたフェロセン系助触媒による高活性触媒系を本反応に用いることにより、高効率Kharasch付加反応の実現を目指す。 高効率Kharasch付加反応が実現された場合、Kharasch付加反応と金属触媒リビングラジカル重合を連続的に行うことで、簡便に末端官能基化ポリマーを合成できるため、本研究は高分子合成化学の観点からも興味深い。
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Research Products
(5 results)