2013 Fiscal Year Annual Research Report
成熟した金属工芸技法を用いた江戸時代金属貨幣の色彩と着色層の微細構造に関する研究
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13J04718
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
田口 智子 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 色揚げ処理 / 豆板銀 / 文化財 / 変角分光イメージング / 丁銀 |
Research Abstract |
平成25年度は、江戸時代を通じて製造された貨幣「豆板銀」及び「丁銀」に施されたと考えられる「色揚げ」処理とよばれる伝統的な金属工芸技法について、(1)丁銀における表面処理や経年劣化による色彩変化、(2)色揚げ処理技法の機構の解明、(3)色揚げを行った試料の耐食性について明らかにすることを目的に研究を行った。得られた結果は以下の通りである。 (1)丁銀における表面処理や経年劣化による色彩変化を明らかにするため、変角分光イメージング装置を用いて分光反射率の測定を行った。色揚げが確認された豆板銀と同様のスペクトルが得られることから、丁銀においても色揚げが施された可能性が高い。角度の増加につれ、430~500nm付近に吸収が見られ、これは亜酸化銅に由来すると考えられる。丁銀の表裏での色彩の差は、鋳造時に使用した鋳型や、残留応力が要因である可能性が高い。 (2)色揚げの機構を解明するためAg-Cu合金を用いて色揚げを復元すると、Ag濃度の増加、表面の色彩の変化が確認され、豆板銀と類似のスペクトルが得られた。また分光反射率測定から、色揚げによって亜酸化銅層が形成されることが明らかになった。また梅酢の主成分のクエン酸やリンゴ酸を用いて色揚げを行うと、Ag濃度の増加が見られたためクエン酸およびリンゴ酸によりCuが優先的に溶出されることが明らかになった。 (3)色揚げを行った試料の耐食性を明らかにするため、恒温環境、恒温恒湿度環境での加速劣化試験を実施した。劣化試験前後の色彩変化や生成物の解析から、色揚げによってAg濃度が高濃度に達した試料に関しては耐食効果があることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度計画に従って研究を進め、自然科学的手法を用いて伝統的工芸技法である色揚げ処理による色彩変化、技法の機構解明、保存性を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、色揚げの施されたAg-Cu合金と硫化物や塩化物による腐食との関係を明らかにするために、加速劣化試験を行う。組成の異なるAg-Cu合金について色揚げ処理を行った試料と、未処理の試料を作製し、塩水噴霧、SOxやH_2S含有空気中等の環境中に試料を保持し、経時変化を調べる。それぞれの試料の色彩変化や腐食生成物を解析することで、試料の耐食性を明らかにする。得られた結果と、文化財試料の分析結果の比較・検討により、文化財の保存環境や今後の保存に要求される最適環境を明らかにする。
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