2013 Fiscal Year Annual Research Report
西谷啓治の思索におけるニヒリズム:西谷前期思想とのつながりとその広がり
Project/Area Number |
13J04832
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
長岡 徹郎 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 宗教哲学 / 西谷啓治 / 日本哲学 / 西田幾多郎 / ニヒリズム / 神秘思想 / エックハルト / 京都学派 |
Research Abstract |
平成25年度における主要な研究テーマは西谷啓治がニヒリズムを主題化するまでの足跡を『ニヒリズム』(1949)までの記述から辿ることによって、西谷前期から中期に至る思想形成の全容を明らかにすることであった。この研究テーマについて宗教学研究室紀要に掲載された論文(以下紀要論文)で発表した。 紀要論文では「宗教哲学―序論」(1941、以下序論)を主に扱った。序論は西谷が自らの宗教哲学について体系的に初めて論じたという意味において、西谷宗教哲学の発足点ともいえる論文である。序論においてドイツ神秘思想や哲学に関する西谷の思索が「体験の立場」として結実する。そこで体験の立場を理解する上で重要となる西谷の「自己」解釈に着目して論じた。西谷のいう自己は一般的な理解と異なる。通常の自意識における自己とは対象的に見られた自己であり、「生」によって形作られた「自己」をあたかも本物の自己として受け取っているにすぎない。この意識的な自己を解消することで、閉じた自己が破られるごとく、脱自の主体性が成立する。この脱自を少なくとも極小に含む経験を西谷は体験の立場とよぶ。さらに体験の立場が主著『宗教とは何か』の重要概念である「体認(realization)」につながることを示した。「体認」は空の立場やニヒリズム論とも関係があり、西谷宗教哲学の本質を理解する上で重要となる。 このように体験の立場における脱自を西谷の記述に即して整理した。年次計画における西谷前期とニヒリズム論との関係を明らかにするという目標は、ニヒリズム論そのものの研究が進まなかったせいもあり終えることはできなかったが、西谷前期から中期に至る思想変遷を解釈する道筋を示すことができた。 西田哲学会、日本宗教学会など多くの学会に参加し交流を深めたほか、西田哲学研究会や西谷啓治研究会など多くの研究会に参加した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年次計画における西谷前期ニヒリズム論との関係を明らかにするという目標は、ニヒリズム論そのものの研究まだ進展途中ということもあり十分とはいえない。しかし体験の立場が後年の重要概念へとつながることを示すことによって、前期と中期以降との思想変遷を考える道筋を示すことができた。まだ研究が進んでいるとはいいがたい西谷前期の意義を、西谷宗教哲学全体の中で位置づけることができたように思う。その意味で目標を最低限達成することができたと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
西洋神秘思想に関する研究に加え、ニヒリズム、西田、仏教に関する研究を進めていく予定である。西谷宗教哲学の基礎となる脱自の思想背景にある西洋神秘思想の研究を進める。また昨年度は研究の重点を前期の著作においてきたが、今後は西谷の主著『ニヒリズム』(1949)に取り組む。これまで進めてきた西谷前期に関する研究成果をいかし、前期から中期以降のニヒリズムへの思想変遷を明らかにする。西谷は西田哲学から大きな影響をうけているゆえ西田哲学の研究も進める。西田から西谷という京都学派の宗教哲学における展開を明らかにしたい。また仏教研究を進め西谷の仏教解釈への理解を深めることで、研究に奥行きを持たせる。
|
Research Products
(1 results)