2014 Fiscal Year Annual Research Report
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13J05035
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
岩垣 真人 一橋大学, 法学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 財政民主主義 / 会計検査 / 権力分立 / フランス政治 / 専門性 / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究は、フランスにおける高級官僚団である、会計検査院の分析を通じ、その専門性と、民主的正統性との緊張関係、そして共存関係について実情を解明することを目的とするものである。 平成25年度の研究においては、憲法の改正と新予算・決算法であるLOLF制定により、いかにその法制度が変化を遂げたか、を分析の中心としてきた。その結果、一見、アングロ・サクソン・モデルに倣い、専門性の追求がなされているかのように思われる新体制が、その実、ジェネラリストとしての会計検査院をその要石とする体制であることが判明した。その分析成果は、平成26年7月に『一橋法学』誌上において、論文として公表するに至っている。 その後、会計検査院を中心とした財政法制の現代的展開をより巨視的に位置づけ、評価するため、平成26年度は、歴史的分析にその中心を移すこととした。殊に、フランス革命以前の、アンシャン・レジーム下における会計検査院の前身である会計院を、パリ第二大学博士課程に在学し、旧体制期に関して造詣が深い、Guillaume Lethuillier氏との情報交換も重ねつつ、中心に据え、分析を進めた。分析の視点としては、従来、フランスを対象とした憲法学研究では看過されることの多かった、売官制をその基礎に据えた、中世フランス司法体制の多元性に着目し、進めた。その結果、平成26年度の研究成果としては、会計院が、中世の裁判機関でも、代表的とされる高等法院(パルルマン)と好対照をなし、特に300年近くにわたり一家がその長を務めるという「家産的性質」を持ち、その対称性・対抗性ゆえに、高等法院と共に王権に対して貴族的特権を主張したという経歴があるにも関わらず、フランス革命以降、忌避されたパルルマン=司法裁判所と対照的に、ナポレオンの膝下におかれることによって、会計検査院が復権を遂げ得たことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究着手時に描いた構想から、現在に至るまで、「おおむね順調に進展している」と評価しうると考える。本研究の目的は、フランス会計検査院の総合的分析、そしてそれを通じた専門性の活用手法・可能性の検討、特に日本におけるその応用可能性の研究であるが、以下の道程を描きつつ、当初の想定から大きなずれなく、進展している。 平成25年度の研究においては、フランス会計検査院を中軸として、第五共和制期のフランス財政システムと、グローバル化の影響を受けた中での現代的転回を検討し、その成果は平成26年度に論文として結実するに至った。この、平成25年度における研究は、現在のフランス会計検査院の総合的把握に成功したと自己評価しうるが、反面、当初の目的、すなわち日本との比較・応用可能性の検討という面に関しては、フランス会計検査院それ自体が持つ、固有の歴史的文脈を十分には把握できていない憾みがあった。 したがって、平成26年度、およびそれ以降の研究では、通史的視点を持ち、歴史的研究を重ねることが必要であった。その課題に従い、平成26年度の研究においては、日本において、殊にフランスを対象とした法学・憲法学の領域では、研究蓄積の薄かった、フランス革命以前にさかのぼり、現在のフランス会計検査院の前身である、アンシャン・レジーム期の会計院を対象とし、その性質の検討をおこなった。その結果、前身である会計院は、非常に特殊フランス的な封建的組織体であり、そのことは、明治国家成立以降に、国家の号令のもと形づくられた、日本の会計検査院(ないし財務省)と比較する際に、留意し、一層慎重な分析枠組みを用いる必要性があると判明した。 上記の、平成26年度の研究成果を元にすることで、また、平成27年度は、並行して空隙となる第三・第四共和制期の分析も進めることで、着手時の意図通り、有益な比較・応用可能性の検討がなし得ると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、フランス会計検査院の総合的把握と、それを通じた日仏比較、専門性活用の可能性分析であり、平成27年度の研究では、その完成が追求される。 まず第一に、フランス会計検査院の総合的把握を完結させる。これは、平成27年度の前半に終える予定である。既に、平成25年度の研究では、フランス会計検査院を軸とした、第五共和制期における財政システムの転換を分析し、平成26年度においては、同院の歴史的淵源を、アンシャン・レジーム期にさかのぼり、把握した。現在、両研究の間に、革命期から第四共和制期までが空隙として残置されているが、平成27年度前半期では、第三・第四共和制期の分析を進め、総合的な把握を完了させたい。革命期からの歴史の中で、他の時期は措いて、この両時期を選択する理由は、まず、第二帝政期までの議論状況などを反映させた上で、第三共和制期において、フランス会計検査院は議会との関係を強化した、という事実があるためである。過度に対象が拡大し、拡散した議論になることを防ぐためにも、第三共和制以前については主たる検討の対象とはしない。また、次ぐ第四共和制期は、それ自体が第五共和制体制を起因したということのみならず、会計検査院がはじめて憲法典上の存在となったという事由からも、重点的な分析が欠かせない。 次ぐ平成27年度後半期では、上のような総合的把握をベースに、専門性がいかなる形で活用されてきたか、また、されているかを総括する。その後、日本において、いかなる形でそれが活かしうるのか、検討する。その際、軸となるのは、一方でフランスのそれと対置すべき日本の会計検査院であり、他方、日本の財政システム上特異な存在感を持つ財務省である。この二つの機関の現状を、フランスにおける会計検査院によった専門性のあり方と比較し、グローバル化の中で、財政課題を解決するためにどのようなシステムをとりうるか、検討する。
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Research Products
(2 results)