2016 Fiscal Year Annual Research Report
ウシ心筋FoF1ATP合成酵素の機能する完全複合体の構造解析
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13J05370
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
慈幸 千真理 大阪大学, 蛋白質研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 三次元結晶化 / 膜蛋白質複合体 |
Outline of Annual Research Achievements |
ウシ心筋FoF1ATP合成酵素は、29サブユニットからなる複雑な分子量60万の膜蛋白質複合体で、回転を伴うがゆえにフレキシブルで著しく不安定である。従来の精製方法は、1)ミトコンドリア内膜の単離と界面活性剤(decylmaltoside)存在下での可溶化、2)ショ糖密度勾配遠心、3)陰イオン交換クロマトグラフィ(PorosHQ20)の三段階で行った。この試料を用いて、二次元結晶化に成功し、電子線トモグラフィとサブトモグラム平均を活用して、分解能24Åで構造を決定し、FoF1ATP合成酵素は単量体で脂質二重膜を43°曲げていることを確認した(Jiko et al., eLife, 2015)。この知見は、FoF1ATP合成酵素と脂質二重膜を同時に可視化できる二次元結晶化を実現して初めて得られたものである。しかしながら分解能が充分でなかったため反応メカニズムの解明には至ることができなかった。また二次元結晶の質を低下させるFoF1ATP合成酵素の分解物が含まれていた。次に、上述の試料を用いて単粒子として極低温電子顕微鏡による構造解析をおこなった結果、膜間ドメインの欠損した本酵素が混在し、分子が不均一であることがわかった(投稿中)。現在、本酵素の原子モデルを解明するため三次元結晶化を目指している。そのためには、安定で均一な分子が必要であり、新しい精製方法を開発することが最重要課題である。 まず可溶化に用いた界面活性剤を、本酵素を安定に存在させることのできる界面活性剤に置換する必要がある。また、精製過程で用いたイオン交換クロマトグラフィは、精製純度の向上に有効であるものの、イオン交換樹脂との相互作用によって酵素本来の構造に負荷をかけ、本酵素の劣化を招いている。よってイオン交換クロマトグラフィに替わる精製方法を見出すことで無傷なFoF1ATP合成酵素を得ることができると考えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Brian Kobilka博士(ノーベル賞,2012)によりG蛋白質共役受容体(GPCR)の三次元結晶化のために開発された新規界面活性剤であるlauryl-maltoside-neopentyl-glycol(LMNG)が、FoF1ATP合成酵素をさらに安定化することがわかったので、可溶化に用いた界面活性剤からLMNGに置換する方法を導入した。また、イオン交換クロマトグラフィに替わる蛋白質構造へのダメージを回避するために分別遠心法の開発を行い、その分離能を向上させた。しかし、ウシ心臓由来の可溶性蛋白質である2-オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体が、不純物として含まれているため、今後精製条件を改良する必要がある。たとえば、可溶化前のミトコンドリア内膜の洗浄を徹底し、密度勾配遠心分離法の分離能を向上させる条件検討を行う。また、密度勾配遠心分離でFoF1ATP合成酵素をIF1という細胞内の活性阻害蛋白質が結合した状態で分離できることを発見した。IF1との結合は、FoF1ATP合成酵素のATP合成を抑制する。つまり本酵素の回転を止めるために本酵素の構造を一つのコンフォメーションに固定し、安定化に寄与すると考えられ、三次元結晶化に好都合である。本年度中に三次元結晶は得られていないが、今後の研究の発展に期待できる状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の成功の鍵は、安定で無傷なFoF1ATP合成酵素を精製できるかである。よって精製方法を確立する。その後、三次元結晶化し、X線結晶構造解析により3.0Åを超える分解能で完全な(intactな)本酵素の構造を決定する。 我々は、新鮮な(ト殺後すぐの)ウシ心臓からミトコンドリア内膜を抽出し、FoF1ATP合成酵素を可溶化した。その後、可溶化に用いた界面活性剤から本酵素を安定化できる界面活性剤に置換することができた。しかし、蛋白質に結合しない遊離界面活性剤が存在しており、三次元結晶化を妨害すると考えられるため、今後、本酵素の安定化に必要な最低限の界面活性剤の濃度を決定する。 また地道な三次元結晶化の条件スクリーニングを行う。得られる三次元結晶の品質を高めるために、添加物の検討、沈殿剤濃度の最適化等を行い、良質な結晶を作製する。並行して、X線回折実験を行うために結晶のクライオ条件を検討する。その上で大型放射光施設(SPring8)の大阪大学蛋白質研究所ビームラインBL44XUにて結晶の回折実験を行い、結晶化→結晶凍結→回折実験のサイクルを回し、条件の最適化を進める。こうして得られる高分解能のX線回折データに重原子誘導体から導いた位相を加えて、高精度な原子モデルを決定する。
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Research Products
(1 results)
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[Presentation] Electron crystallography of tomographic volumes.2016
Author(s)
Kazutoshi Tani, Karen Davies, Chimari Jiko, Shintaro Maeda, Kyoko Shinzawa-Itoh, Deryck Mills, Tomitake Tsukihara, Yoshinori Fujiyoshi, Werner Kühlbrandt, Christoph Gerle
Organizer
3DEM Gordon Research Conference
Place of Presentation
Hong Kong University
Year and Date
2016-06-21
Int'l Joint Research