2014 Fiscal Year Annual Research Report
西風イベントが引き起こすENSO位相遷移メカニズムの解明
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13J05379
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
林 未知也 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-26 – 2016-03-31
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Keywords | エルニーニョ現象 / 西風イベント |
Outline of Annual Research Achievements |
西風イベントがENSOの位相遷移をもたらす過程を調査するために,大気海洋結合モデルMIROC5に西風イベントを与える実験を行った. まず,2014年1月から3月にかけて西風イベントが2度生じたことと強いエルニーニョ現象の発生が世界の現業機関によって予測されていたことから,MIROC5に風応力日平均偏差を熱帯に与え続けた実験を2014年3月まで行い,その後の予測実験を試みた.西風イベントの後に観測された昇温は2014年6月頃に起こるにとどまって強いエルニーニョ現象は発生しなかったが,実験結果として強いエルニーニョ現象が生じたため,2度の西風イベントをそれぞれ取り除くことで,1月末に生じた西風イベントの寄与は小さく,2月末から3月初旬にかけて生じた西風イベントによる東部熱帯太平洋の昇温が温度躍層付近の赤道潜流偏差を伴って強い下降流をもたらすことで卓越していたことが明らかとなった. 予測が初期値に依存することが考えられるので,初期値に依存しない純粋な2014年3月の西風イベントの寄与を調べるために,30個の異なる初期値を用いて西風イベントを与える実験を行うと,観測とよく似た東太平洋の昇温が現れ,上述したメカニズムで西風イベントが昇温をもたらしたことが明らかとなった. より一般的な西風イベントの影響を調査するために,様々な時期や位置に理想的な西風イベントを与えて応答を調査した結果,5月頃に西風イベントが生じる場合には季節変動する背景場と相互作用することで効率的に東部熱帯太平洋を暖めることが明らかとなった.この成果は国際誌に投稿され,国際学会で発表された.また,大気擾乱と季節周期の相互作用について議論するために,ハワイ大学を訪問して研究者らと議論を交わした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
西風イベントがENSOに与える影響を調査するために大気海洋結合モデルを用いて一連の実験を行うことで,西風イベントが東部熱帯太平洋を暖める詳細な過程を熱収支解析によって定量的に調査し,また,効率的に東部熱帯太平洋を暖めることのできる西風イベント発生の時期および経度を特定することができた.このことは過去の強いエルニーニョ現象の発現に4-6月頃に西太平洋で発生した西風イベントが重要な役割を果たし,西風イベントが発生したにもかかわらず予測されたエルニーニョ現象が発現しなかった事例の理由を部分的に説明する結果である. ここでは西風イベントの発生原因の特定や海洋が西風イベントに与える影響を考慮していないという課題は残るものの,西風イベントがENSOを引き起こすための条件の特定に成功し,さらに高周波な大気擾乱は季節周期との相互作用によってENSOのような低周波な現象へエネルギーを送りうるというより一般的な研究の方向性を示唆することができた.したがって,研究は順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
西風イベントが起きる条件を特定し,それに対する海洋の役割を示す必要がある.そのために,観測データから西風イベントを抽出し,風や降水,海面水温の日平均データを用いて西風イベントが発生した環境場についてまとめ,そこに内在する西風イベント発生のメカニズムを探る.背景場の高い海水温に伴う深い積乱雲の発生や,背景場の風の水平勾配に関係したエネルギー変換が重要な役割を果たしている可能性があるため,高周波成分と季節内よりも遅い周期,気候場に分けて解析を進める. また,高周波大気擾乱と季節周期との相互作用の重要性が示唆されたため,最も簡素なENSOモデルである再充填振動子理論に高周波強制と季節周期を与えた調査を行う.高周波大気擾乱にも季節性があるため,その周期と気候場の季節周期との関係がENSOを増幅させやすい条件を作り出すことが予想される.ENSOを増幅させるために必要な季節周期と高周波擾乱の関係を見出した後に,それに基づく現実的な数値実験を大気海洋結合モデルMIROC5によって行う予定である.
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Research Products
(8 results)