2014 Fiscal Year Annual Research Report
自発的脳活動がもつ機能の解明に向けた力学系的アプローチ
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13J05413
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
栗川 知己 独立行政法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 自発的脳活動 / 意思決定課題 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、近年盛んに研究されている自発的脳活動を含めた情報処理の様式を、”memories as bifurcations”という新しい枠組みの元で調べることを目的としている。 具体的には申請書において以下の二つの研究の方向を提示した。1. 今まで用いたモデルの低次元化による数理構造の理解。 2. 具体的な系への応用。これらについての実施状況を述べる。 1低次元化による理解: 平均場近似などの方法では外場の扱いが難しくあまり進展しなかった。そこで非線形縮約などの統計的な方法での理解を試みているところである。それと並行し、階層的な記憶構造が自発活動にどのように埋め込まれるのかをモデルを構築し、解析した。その結果我々は、1.自発活動において学習パタンの相関構造が、自発活動において再現されること、2、印加する入力強度を強くすることで、学習パタンの階層構造を大きなカテゴリから順に想起していくこと、3、さらにこの階層構造を想起するという現象が、入力強度を変化させない一定入力下でも、過渡的なパタンの変化として現れるという事を見出した。このような階層構造の時間的な変遷は、実験的にも観察されており、本研究は階層的な記憶と自発活動を含めた神経活動のダイナミクスの関係の理解につながるものとして期待される。 2具体的な系:現在受け入れ研究室で行われている、ラットの実験結果をもとに新しい意思決定モデルの作成解析を行っている。この研究において、モデルの結果から、感覚ニューロンの応答性と動物の挙動の個体差に関係があるのではないかという仮説を提出した。さらにその検証のために、実験動物(げっ歯類)の個体間挙動のばらつきとモデルの予測を比較した。その結果、モデルの予測結果が実験動物の挙動をある程度再現していることを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述のように本研究では主に二つの観点から研究を進めている。 1今までのモデルを用いた低次元化による数理構造の理解。この方向では、平均場などによる解析が難航している一方で、階層的な記憶構造において、自発活動から入力を印加した活動まで入力強度を変化させることで階層的な想起が実現できるという、本研究目的である”自発的脳活動とその機能を力学系的に理解する”と観点からの進展があり、その点で評価できる。 2具体的な系のモデル構築による理解。当初の計画では、海馬系のモデル構築を行う予定であったが、受け入れ研究室が過去に行った意思決定課題のデータを用いることでより現実的なモデルを構築することが可能になった。現在までにリザーバネットワークと呼ばれる枠組みを元に、ラットの行動結果を再現することに成功し、またそれらの背後にあるメカニズムを明らかにしつつある。さらに、ラット間の違いに着目し、それらの違いが生まれる機構に対する仮説も提案している。これらの点は具体的な系の理解という目的におおいに資するものであり、評価できる。しかし未だに自発活動との関係を明らかにする所まで到達していない所で不満が残る。 以上のように1、2ともに予定よりも進展した部分とそうでない部分があり、それらを総合的に勘案すると本研究は現段階において上の評価、”概ね順調に進展している”に当たるとかんがえる。
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Strategy for Future Research Activity |
1今まで提案したモデルを中心として低次元化をとおして数理構造を理解するために、本年度までn平均場の解析などに取り組んできたが、現在のところ進展は芳しくない。そこでこの解析的な路線も継続しつつ、他の統計学的な縮約などのアプローチに取り組む。こららを通して数理的な描像を理解することができると期待している。 これと合わせて自発的脳活動とその機能的な意義の理解のために、学習順序が自発的脳活動に与える影響ひいてはそれにより慶された自発的脳活動が新たな学習に与える影響の解析を試みる。学習順序と想起パタンの関係(例えば学習されたパタンと似たパタンを与えた時の想起の仕方)は海馬の場所細胞、顔の認識などで研究されており、モデルも幾つか提案されている。しかし本研究の主眼である自発的脳活動との関係は議論されておらず、これらの点にしぼった解析は本研究の目的に合致すると考える。 2現在受け入れ研究室でもっている意思決定課題のデータを用いたモデル構築・解析を進めている。現段階では自発的脳活動との関係まで研究がすすんでいないため、この点を明らかにすることを目指す。そのために現在モデルの枠組みとして採用されているリザーバーネットワークの力学的的構造を解析していく。そのためには大自由系の力学系の解析を行う必要がある。平均場解析の標準的な方法だけでなく、近年研究されている非線形縮約の方法などを試みる。この方法は1の低次元化と共通するものがあり、相乗効果が期待される。
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Research Products
(5 results)